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[コメント] MUSA −武士−(2001/韓国=中国)

14世紀後半、共に時世に消え逝く高麗武士とモンゴル騎馬民族の誇りを懸けた戦いを描く。登場人物それぞれの男っぷりはいい感じだが、肝心の戦闘はドアップが目立ち、観にくいのが難点。別将を演じたパク・チョンハクは、渋くきまって印象に残る。
スパルタのキツネ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







本作の時代背景を考察する為に、中国、朝鮮、モンゴル、日本の関わりを簡単に年表にまとめてみました。

●1170年 高麗に武官政権が朝鮮史上はじめて成立する。

●1192年 日本に武家政権が日本史上はじめて成立する。

●1206年 チンギス=ハンがモンゴル帝国を樹立。

●1250年代 フビライ=ハンによる中国方面の遠征始まる。

●1259年 高麗、モンゴル帝国に服属する(高麗武家政権の終わり)

●1271年 フビライ=ハンが元を樹立する。

●1274年、1281年 元国、高麗軍を先陣として日本に出兵するも失敗。元寇(文永・弘安の役)

●1279年 元、南宋を滅ぼす。

●1368年 朱元璋率いる紅巾軍、元を破り、明を樹立する。

●1371年 モンゴルに退いたモンゴル民族、北元を樹立する。

●1388年 明、北元を滅ぼす。

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年表のように、本作の舞台は、明の初代皇帝 朱元璋が活躍した時代で、更に北元が存在した、14世紀の後半(1371年〜1388年)にあたる。

本作で敵方となったモンゴルの騎馬部隊は北元の隊で、嘗ての元の栄光の影も薄れ、まさに明に滅ぼされようとしている。起死回生の手段として、明王の娘獲得にこだわったのもうなずける。

また、本作の主人公である高麗の将軍とその一行は、高麗が「文官」政権になって百数十年経た当時の身分関係にある。すなわち、将軍をはじめとする武官は、文官に支配され、差別される立場にあった。このような身分に至らしめたのが他でもない、隆盛を極めた頃のモンゴル軍である。本作の闘いは、北元と高麗武士による100年越しの宿敵同士の闘いと言える。

本作では、使節(文官)の2人がいずれも中途で亡くなってしまうため、文官と武官の身分格差は大きく取り上げられていなかったが、登場人物に奴隷を加えることで、当時の身分格差を描いていたように思われる。奴隷が武官ではなく文官に付き従っていたのは、文官政権では当然と言え、使節が死の目前、武官に奴隷を譲らず解放したのは、慈愛というよりは、当時の文官らしい政策で、武官の反乱のたびに奴隷解放を口にし、武官対奴隷の構図で均衡を保った文官政権の政策が見え隠れする。対照的に武官同士は、ほとんど常にいがみ合っているのは面白い。

ところで、上の年表に敢えて日本を追記したのには訳があります。それは、アジアの小国、高麗と日本で全くの偶然か、歴史の悪戯か、ほぼ同時期に武家政権が成立したという史実を強調したかったからです。武士は日本発祥と思われがちですが、朝鮮のほうが先に武士による政権が成立していたのはあまり知られていないと思います。更に歴史の摩訶不思議ですが、騎馬民族による極めて戦闘的なモンゴル帝国がアジアに成立したのもほぼ同時期なのです。

その高麗の武官政権は、モンゴルの侵略に対し、長年にわたり抵抗した後、倒されてしまいますが、かの最強モンゴル騎馬部隊と「陸」で闘い、全面征服を免れたのは、高麗武士の強さを物語っていると言えましょう。そして、この高麗の抵抗が、元の日本への出兵を遅らせた大きな要因となっているのもあまり知られていない史実です。

元は高麗に手間取った為、老齢となったフビライ・ハンが極めて強引とも言える海戦を日本に挑んだ、と私は想像します。日本の勝利は「神風」あってこそ、と普通に語られますが、同時代に高麗に武家政権がなければ、文官政権の高麗はあっさり降伏し、元の日本への攻め方ももっと異なったものとなったことでしょう。

こうして、元の征服を逃れた日本には、鎌倉、室町、江戸と3つの武家政権が成立しましたが、中国に服属し続けた朝鮮には武官政権はその後一度も成立せず(日本軍統治、北朝鮮は除く)、高麗武士はモンゴル騎馬部隊と共に歴史の表舞台から消えていくのでした。

こういう意味で、本作を観ると違って観えてくるのではないでしょうか?

(評価:★3)

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