コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ブラザーズ・グリム(2005/米=チェコ)

ギリアムは受けに回ってはいけません。この人は常にとんがっていて欲しいです。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本当に久々のギリアム監督の新作。この日をどれだけ首を長くして待ったことか。思えば3年前に監督のライフ・ワークである『ラ・マンチャの男』を映画化すると聞いて、どんなことがあってもこれだけは観るぞ!とわくわくしてたもんだが、結局それはお流れ(その顛末は『ロスト・イン・ラマンチャ』(2001)に詳しい)。その後しばらくして、今度は「グリム兄弟やるぞ」とのニュースが。

 ヨーロッパの中世に大変思い入れのある監督のこと。これもやってくれそうな予感はあったので、本当に指折り数えるようにしてこの日を待った。そして期待度は無茶苦茶高いままに劇場へ向かう。

 うん。監督らしいギミックや演出に溢れており、容赦ない描写も所々散見できる。これは確かにギリアム作品だ。物語としても、結構面白くはある。フランスとドイツの軋轢やシュヴァルツヴァルトの森を中心に持ってくるなど、設定もなかなか練り込まれてる。

 だが、それでどうだったか?と言われたら、首を傾げてしまう。

 ギリアム監督は常に私に新鮮な驚きを与えてくれる。どちらも一般的な評価は低いが、『バロン』(1989)では、「他の誰がなんと言おうと私はこれが作りたいんだ!」という主張に溢れた作品を。『ラスベガスをやっつけろ』(1998)では、これまで培ってきたものを一旦全部取っ払い、それでも尚監督にしか作り得ないものを作り上げてくれた。だから、観るたびに何かしら新鮮な驚きがそこにはあったのだ。

 しかし、本作ではどうだろう?確かに監督っぽさは保持している。だがそれは「周りの人にどう思われているか?」という観点でのみの演出であり、たとえ“らしさ”はあっても、完全な妥協でしかなかったようにしか思えない。作りが受けに回ってしまったとしか思えない。

 一言言わせてもらうと、「ギリアムは守りに入っちゃいけない監督なんだよ!」と言うことである。彼の作りたいように、そして自分の思いの丈をぶっつけて作って欲しかった。それがたとえ世間から“失敗作”と言われようとも、彼のそう言う姿勢こそがコアなファンを作ってきたんだろう。失敗を恐れて手堅く作ろうなんて、そんなギリアム監督の姿は見たくないんだ。

 折角グリム兄弟という魅力的な素材を使っておきながら、物語に深く入り込むことなく、上っ面だけ物語をなぞって単なるアクションにしてしまったのはあまりにいただけない。グリム兄弟作品をほんの少しだけ出して、味付けだけで済ませてしまうなど、ほとんど『シュレック』(2001)と変わらないぞ。『狼の血族』(1984)のニール=ジョーダンあたりの突っ込んだ、残酷な描写が欲しかった。あそこまで引っ張って最後に単なるハッピーエンドで終わらせるってのも寂しすぎる。現実との境界が曖昧になり、物語の中に分け入ってしまう位の演出を期待してたのに。

 それに毎回凝った仕掛けで楽しませてくれるのに、今回はセンスのないCGの使い方がやたら多く(ここまでCGモロ分かりの演出も無かろう)、それも引く。あんなCG使う位だったら手作りの特撮でやれ!

 キャラに関しては、やっぱり主人公二人が間違ってなかった?兄弟が逆の方が絶対はまったよ。ベルッチももうちょっと妖艶な美しさ出せる人なのになあ。カヴァルディが最後に改心してしまう過程も全然描写不足。

 最後に、猫好きな人間に「レアだな」を見せつけるのはあんまりだよ(そう言えば兄弟の名前って兄がヤーコブで弟がヴィルヘルムだったはず。逆じゃないのか?ひょっとして配役を変えた?)。

 期待度が高すぎた。しかし、かといって低い点数付けるのもはばかれる…ギリアムファンとして、これがギリギリの評価だ。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (7 人)おーい粗茶[*] セント[*] 考古黒Gr[*] かるめら Stay-Gold[*] 水那岐[*] 月魚[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。