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[コメント] グラディエーター(2000/米)

リドリー=スコット監督は「これで吹っ切れた」とインタヴューに答えていたし、この作品が契機で監督は再びメジャー作品に挑むようになった…でも、吹っ切れてくれない方が良かったなあ。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 2000年のアカデミー作品賞を筆頭に数々の賞を独り占めにした本作。この作品はそれだけでなく、近年鳴かず飛ばずだったリドリー=スコットの再起作としても有名になった。かつての『エイリアン』や『ブレード・ランナー』ファンとしては嬉しくもあり、寂しくもあり。

 帝政ローマ時代を舞台に、スコット監督の映像美が冴え渡る…

 と言いたいところだが、正直、私はこの映画に幻滅しか覚えなかった。

 歴史物の映画は難しい。実際歴史そのものを知っているのか?この監督?と思わせる作品も多く、大概は幻滅して終わる。その辺の設定をきちんと分かった上で監督の強烈なイメージが投射されていれば、私の中の固定化されているイメージの中に新しい要素が加わるので、凄く好きになることもある。だから私にとって歴史物映画は結構賭け的な要素が高かったりする。

 で、本作だが…設定的に言わせてもらえば、無茶苦茶不満。大概は細かいことばかりなので、小骨が何本も喉に引っかかった気分なんだけど。

 まず冒頭の戦闘風景。映像的には実に美しい。ただゲルマン民族というのは騎馬の民であり、対するローマの主力はレギオンと呼ばれる重装歩兵部隊。その重装歩兵を指揮者の命令の元、整然と運用することで無敵のローマ軍を作り上げていた。しかるに最初の戦闘では戦闘隊形もなにも無し。力同士のぶつかり合いで、騎馬姿はローマ人だけで、騎馬民族であるはずのゴート人はみんな歩兵ばっかり…これを見た瞬間、確信した。これは駄作だ。

 更に細かいことなのだが、馬の鐙(あぶみ)が発明されたのはもう少し後の時代で、この時代の騎馬と言うのは裸馬の背中に脚の力でしがみつく乗り方しか出来なかったはず。画面ではしっかりと鐙があるんですけど…

 他にもいくつか。ローマ人の主食がパンで、チーズが一切出ず、肉ばかり食べてるとか(ローマ人は肉を嫌い、基本的に食事はオートミールとチーズ、それにワインと果物だった)。ショーの時マキシマス達はカルタゴ人に扮装させられるのだが、ここでもローマ軍が騎馬姿、騎馬国家のカルタゴが歩兵役…この辺は本当に細かいことばかりだが、それがこう連発されると醒めるだけ醒めてしまう。

 後、これは大きな問題。マルクス・アウレリウス帝はローマ市内で死んで、息子であるコンモドゥス帝はゴート族との戦いの末、客死してるはずなんだが、ここでは全くの逆になってる。年代そのものでさえここでは完全にぶっ飛んでる。

 こうなってしまうと、もはや画面に集中しようと言う気持ちさえ持てなくなってしまう。少なくとも私を快楽の世界に連れていってくれない映画なんて、観る価値もない。こう醒めてしまうと物語そのものも陳腐にしか思えなかった。

 逆にグラディエーター同士の戦いなんかは設定的にも結構しっかり作られていて、その辺は良いんだけど、手を抜く場所と本気になって取り組んだ場所のギャップが酷すぎ。もうちょっと設定をしっかり作ってくれたらそれなりに評価したいけど、これじゃ駄目だ。

 以上述べたことは私の観方が偏っているのは確かだと自分でも承知している。だけど、見事な位にはまれなかった映画であることは間違いがない。前年の『アメリカン・ビューティ』に続き、オスカー受賞作と私の相性の悪さを露呈した作品になってしまった。

 勿体ない作品。それに何より、勿体ない監督。むしろ私はこの作品に、哀しみを感じてしまう。

(評価:★2)

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