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[コメント] 28日後...(2002/オランダ=英=米)

もし勝手にこの作品の副題を付けさせてもらえるんだったら、『ダークネス・オブ・ザ・デッド』と付けたい。で、なければ『アフター・アウトブレイク』とか(笑)
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 予告のセンスは結構良かったし、何かと話題となっていたので結構興味はあった。ただ、問題は監督のダニー=ボイルと脚本家のアレックス=ガーランド。この二人が組んで作った映画『ザ・ビーチ』(1999)は最低最悪だった。その事実に一抹の不安を覚えつつ、それでも劇場へ。

 オープニングは酷かった。内容が、ではなく、音が。なまじ音響が良い映画館だったため、オープニングシーンでのあのやかましさは殆ど物理的暴力で脳を揺さぶる。一転して静かに本編が始まった時には耳鳴りが続いていた。何が悲しくて映画観てこんな痛い思いせにゃならんのだ。

 それで観進んで行くと、どうにもデジャビュが…

 理由は分かっている。このパターンはロメロ監督の『リビングデッド』シリーズによく似ているのだ。と言うより、「ほう。これはあのシーンだな」とか思えるシーンがいくつも出てきて、別な意味で楽しかった(通常劇場内では映画はのめり込んでみるのでそんなことを考えない。だけど、私は恐がりなので、精神的に逃げ場所を求めてしまったらしい)。ラストまで観て、これは確信犯的な作品だろうと言う思いを強くした(ラストは2つのヴァージョンが公開されたが、切られた方は『ドーン・オブ・ザ・デッド』(1978)で、公開版の方は『デイ・オブ・ザ・デッド』(1985)によく似てる)。概ね3作目の『デイ・オブ・ザ・デッド』のテイストを強く残した作品だったので、なんだかその続編のように思えてしまった。

 いや、だからといって本作は駄作ではない。きちんとお約束を踏まえつつも、演出はきちんとしているし、理不尽な怒りや悲しみ、そして安心感など感情の表出が丁寧に抑えられている。感染があっと言う間に起こるという設定も緊張感があって良い。更にディジタル処理され、ざらついた表現が逆に感染者に襲われる恐怖を上手い具合に表現できたと思う(これは結構難しい。本当に怖くしたり、不必要にグロテスクにするとバランスが崩れてしまうから)。私のような恐がりの人間でもあまり問題なく全部観ることが出来た。

 キャラに関して言えば、主人公のマーフィのジムは髭を剃る前と沿った後の顔のギャップが激しすぎるとか、軍隊と戦う時に何で館の地理をそんなに把握してるの?とか、いきなりランボー張りに強くなりすぎるとか、ちょっとばかり描写が変すぎる。それにセリーナの思考形態があんまりにも単純とか、イギリス陸軍を完全に馬鹿にしたような軍隊描写とかあるが、その辺は演出だと考えたい。本作でキャラが一番立ってたのはグリーソンのフランクだろう。あらゆる事態に対して落ち着いて対処し、“頼れるお父さん”をきちんと演じていた。彼が娘に「愛してる。離れろ」というのはグッと来るシーンだったな(ストーリー上あっさり流されてしまったが)。『ブレイブ・ハート』(1995)で気になる役者になってたが、『ギャング・オブ・ニューヨーク』(2001)の時と良い、彼は頼れる人間を演じるのが上手い。

 個人的にツボに入ったのは、オープニングで動物愛護者の女性が感染したチンパンジーに「さあ、出してあげるわよ」と猫なで声を出していながら、襲われた瞬間「こいつを離して!」と怒りまくってる描写…人間ってこんなもんだ、と言う主張が見えるようで結構楽しかった。

 一方、設定に関してはいい加減な部分がどうしても見えてしまう(引いて観てしまったため、余計にそれらが目に付いてしまった)。今までのリビングデッドものと異なり、感染者がやたらパワフルだったり、周りに血を吐きまくったりとなかなか魅力ある(?)描写がなされているが、怒りが増幅されてるだけのはずなのに、感染者同士が殺し合ったり、身の回りのものを破壊しようとしないのは設定上変(この辺は『リビング・デッド』よりも『バタリアン』(1985)に共通するな)。冒頭では暴徒が暴れ回った後のロンドンが描かれるが、公共物は全くの無傷だし、道に放棄された車があんまりないってのもおかしい。それと後半で地雷で吹っ飛んだ感染者の肉片が飛んでくるのに、ゴーグルやマスク無しで笑ってる兵士…お前ら絶対感染してるって。

 それと、音を何とかしろ。アクション部分の音が大きすぎて耳が痛くなる。後半はやかましくなったら耳に指つっこんでた。

 先にも少し書いたが、本作は2つのヴァージョンのラストシーンがある。公開版の方は本作のキー・ワードでもある「HELLO」という言葉を上手に使っていて(ジムが言った全台詞のかなりのパーセンテージがこの言葉で占められてる)、途中でちらっと見えた飛行機や、28日という言葉を繰り返したりしてちゃんと伏線を処理してた。一方切られたヴァージョンだと、一抹の救いは与えられているが、なんだかやるせない気分にさせられるが、こっちはこっちで味がある。ただ、劇場で二本放映するのはいかがなものか?切られた方を後で放映すると、そっちの方ばかり印象に残るぞ。

 総評を言えば、良くも無し、悪くも無しって作品。ただし、ロメロ作品が好きな人には無条件にお薦めする。

(評価:★3)

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