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[コメント] 稲妻(1952/日)

「すぎわいは草の種」とはよく言ったもので、どうしょうもない人間が、次々にどうしょうもない人間じゃない人を仲間に引きずり込むパターンの多さを視覚的にコミカルに描いていて好感度大。適度に配置されたヒーリング効果のある言葉が、どうしょうもない人間の価値を谷底に落とさない効果を果たす。これぞ成瀬マジック。
ジャイアント白田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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一発で表現してしまえる成瀬巳喜男の腕力は凄かった。

保険金にたかりまくる親類たちに辟易するんだけど、絶妙のタイミングでそこにある辛気くささが充満した空間に笑いの種を蒔いて芽吹かせている。この他にも、絶妙のタイミングで笑いを誘う言葉のやり取りが多々あり、どうしょうもない人間たちをトコトン憎めないのだ。逆に愛らしささえ抱いてしまえる気分にしてくれると同時に、現実に市井で営む家族の中心にそれと同質の「逆境を笑いに換える」空気が今もなお絶滅しないであるのだからリアリティがあり、アットホームな味に惹かれる。で、そのやり取り自体は笑いを誘うだけではなくて、登場人物を追いつめさせない効果とカオス化している戦争ボケが抜けきらない時代を一発で表現していると見ても全然違和感がないんじゃないかなと思う。

そんなこんなで、その中で光る高峰秀子の強気さが作品をキュっと引き締めていた。プチどん底に巣くう駄目人間の群像劇をバラバラに離散させない物語性は、原作は当然だが、高峰秀子無しには語れないんじゃなかな。高峰秀子が本気で役者共々嫌っているんじゃないかと勘ぐるぐらいに、駄目男を毛嫌う仕草と顔の演技は神業です。

ラストに鎮座している、母親と子供@逆境の典型的なやりとり「産むんじゃなかった&産まれたくて産まれたんじゃない」のあとの母親おせいと清子のボケが心地よすぎて笑い涙がちょちょ切れる想い。辛い辛いと言っていても何も始まらないんだから、と気持ちを入れ替えて次に進む清子の女性の強さと、そこの本質である「戦争を乗り越えた」強さが女性の繊細さを身にまとい、女性を女性として嘘偽り無く描ききった映画がここにあった。

私は勝ち気な女性がとっても大好きです。おわり。

2003/5/30

(評価:★5)

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