コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] EUREKA(2000/日)

白黒フィルムをカラーフィルムの現像方法で行うと、あのようなセピアが出るそうです。あのセピアがこの映画をより一層深みを出すと同時に一世風靡した少年バスジャック事件と同時に世に生まれるだなんて…青山真治に神降臨!
ジャイアント白田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







兄と妹の差は思春期、反抗期を迎えたか迎えてないかの違いだった。もし妹が思春期を迎えて母の出ていく姿を目の当たりにしていたら、きっと兄のように重圧の圧力の矛先を内で爆発させて通り魔ではなく力がいらない放火に走っていたのかもしれない。

そしてバスジャック犯と沢井にしてもバスジャック犯は社会と会社に虐げられたか虐げられなかったか又はその虐げられ度の違いだと思う。ダムにほんの小さな亀裂から決壊するように、事の起こりはほんの些細なことだけれど、些細なことが積み重なると人間なにをしてしまうかわからない事を217分という短い間でほんの一部描いた最高傑作ロードムービー映画!!!

《推測》

終始、父親の影はなかったところを見ると、兄妹の父に対しての感情は最初から憎しみに近い感情であったのであろう。その父からの何らかの兄妹にとっては受け入れがたい意志から守ってくれていた存在が母親だったのだろう。事件後の外からの対応にしても母の心労を間近に見ている分それは確かだと思う。

しかし、母は兄妹を捨てて出ていく。男をつくって家を出ていく母に対して思春期、反抗期における潔癖な純血な精神を持つ少年田村直樹は怒りを覚え血の温もりの中に母の温かさを追い求めたのかもしれない。バスで隣にピッタリと兄に寄り添う幼い少女田村梢は母の温もりが忘れられない感情を兄に遠慮して表に出さなくなった。そこに、周囲の人との違和感を覚える世間体に三行半を突きつけたいのに突きつけられない沢井が家に来て暮らすことによって、何故母が出て行かないといけない状況になったのかを知ったのだ。

沢井は父にはなかった何かがあった。兄妹に食事を作ってやるし、悩みを聞こうという意志が貫かれているし、兄妹のおかれている場所を痛いほど理解している。そして父親みたいに未来に絶望し自ら事故を装い自殺して逃げに走らず共に真正面から問題に取り組もうと頑張る姿がそこにあった。兄妹は自分たちと共にドン底から這い上がろうと手助けを労を惜しまない沢井の頑張る姿に少しずつ心を受け渡していく。そう、事件を境に変わった生活と今は亡き父親との関係を修復するために。そして家族になるために。

_______《沢井の女を殺す兄田村直樹》_________

兄は母が男を作って出ていった(本当は夫に愛想尽かしたかもしれないが)のが記憶に生々しく残っていたのだろう、沢井の本心がどうであろうと沢井が母の家を出て一度も自分たちの窓に目をやらなかった姿とダブって見えたのだろう、再び捨てられてしまうのだとでも感じ反抗に及んだのだと思う。

女性の血の温かさから母の温もりを肌で感じたいがために及んだ連続通り魔殺人事件は沢井が兄妹の元へ来た時点で終息に向かっていく。それは捨てられていないという安堵の感情がストレスをほぐしてくれて、沢井の献身的な態度が変えさせていたのだろう。しかし、恐らく珍しく兄は仕事先まで沢井を迎えにいったのだと思う。でもそこにいたのは沢井と同僚の女性の姿が。兄は母を家を出ていく時に抑えられなかった無力さを身に染みてわかっていたから全力をもって阻止したかったのだろう。沢井は兄妹にとってなくてはならない存在になっていたといえる。

_______《沢井と妹田村梢》________

妹は変わりたかった。きっと変わりたかったのだと思う。兄とは違い余計なことを兄より少しだけ世間を考えなかったエネルギーで回復に向かいたかった気持ちがあったのだと思う。そして、そのエネルギーは次のステップアップにも使われ、その証拠にラストの行動に表れているのだと思った。

兄と違って回復が良かったのも、兄は人間の汚い部分を垣間見ていたから沢井を疑ってかかる。しかし妹は兄よりは垣間見ていなかったので沢井を受け入れるのが早かった。そして沢井からの愛情をエネルギーに変えて活きる活力を生みだし前進していこうとしていたのかもしれない。兄にもう少し素直な気持ちだったら、このほんの僅かな些細な気持ちがあれば犯行に及ばなかっただろう。

___________《秋彦の存在》____________

「A.沢木>父親」を揺れ動かす存在秋彦が登場する。彼がいなければ「A.沢木>父親」は答えとして存在するけど、答えのままであって答えから予期される次の「家族」という応用問題に対応するだけの力が付かなかったと感じた。もし秋彦がいなければズルズルと沢木の握るハンドルのバスに乗せられ流され生かされていると感じてどこかで破綻を生じまた再び元の生活、「A.家」に帰っていたと思う。

現代の典型な数々の戦争・紛争の真実も知らないのに戦争論を語りサッカーの事そんなに詳しくないのに詰め込んだ知識を知ったようなそぶりで生きていたところに実体験だから他人の体験より重視し偉大に思う自尊心の固まり秋彦が逆のサイドから切れ込むことで兄妹は戸惑うが、戸惑うだけに見合ったモノが霧から出た時に得られるように天が使わした使者にも思える。

2002/6/10

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (6 人)Santa Monica グラント・リー・バッファロー[*] 甘崎庵[*] トシ[*] ina sawa:38[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。