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[コメント] 戦場のメリークリスマス(1983/英=日)

言うまでもなくデヴィッド・ボウイ坂本龍一ビートたけしの映画として多くの人に記憶される作品だろうが、改めて見るとトム・コンティの存在の大きさに気付かされる。
太陽と戦慄

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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ロレンス(コンティ)は俘虜の中で最もハラ軍曹(たけし)やヨノイ大尉(坂本)へ言語的にコミュニケーションを取ろうと試みる存在として描かれている。ハラから面と向かってなじられ、「お前が死んだらお前のことをもっと好きになる」などと侮辱的な発言をされても穏健な態度を崩さない。日本兵の理不尽な暴力に対し語気を荒げて非難するが、ロレンスとセリアズ(ボウイ)を釈放したハラには「あなたもやっぱり人間だ」と言葉をかける。

「個々の日本人を憎みたくはない」と語る彼の立ち位置が一貫しているからこそ、ハラと再会するラストのやり取りにも納得性があると感じられる。このラストは許しを感じる名シーンだ。大島渚は怒りの映画を撮り続けてきた作家というイメージがあるが、本作はその奥底にある優しさが垣間見える。監督の初期作である『日本の夜と霧』では政治的対立とディスカッションの果てに更なる断絶しか待っておらず、そこには許しが入り込む余地などなかった。そこから20数年の時を経て、本作では許しを描く境地に至ったのかと思うと、私は感銘を受けずにはいられない。

ロレンスが言語によってハラやヨノイを説得しようとした一方で、セリアズは自身の魅力、カリスマ性によってヨノイに新しい感情を芽生えさせたのだと思う。月並みだが抱擁シーンはやっぱり感動する。

もう一つ印象に残ったのは、中盤あたりで日本兵の一人がセリアズ殺害を企て失敗する件。勝手な判断で行動したことを謝罪しつつ、ヨノイに向かって「あの男は隊長どのの心を乱す悪魔です」と訴え切腹する。魔性の存在が現れたことによって、組織内の統制が崩れゴタゴタが発生するという世界観。ここをピンポイントで掘り下げたのが後の『御法度』ということになるのかもしれない。

(評価:★5)

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