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[コメント] フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ(1966/日)

フランケンシュタイン対地底怪獣』が本多猪四郎の映画なら、『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』は円谷英二の映画だ
ペンクロフ

フランケンシュタイン対地底怪獣』の姉妹篇『サンダ対ガイラ』は、前作と繋がっているようで全然繋がっておらず、パラレルワールドの如き妙ちきりんな映画になっている。極めて文学的なセンチメントを呼びおこす前作からガラリ変わって、『サンダ対ガイラ』は純然たる怪獣映画だ。サービスと工夫が山盛りで、架空のリアリティに満ち、必要最小限の描写が膨大な想像力を刺激し、90分足らずで結末まで疾走する。ガイラの怖さと暴力性、特撮のクォリティの高さ、展開の速さ、すべてが暴走しており止まることがない。はっきり言って、女性にはお見せできないレベルのハードコアだ。娯楽怪獣映画の、ひとつの到達点であろう。

映画の中盤、ガイラを追いつめる自衛隊のL作戦の迫力は凄まじい。自衛隊の迅速な作戦準備がタイトに、かつ緻密に描かれる。それだけでも実にキビキビと気持ちよい描写なのだが、いざ決戦に至ってガイラを足留めする光線、メーサー車による遠距離攻撃、河川の電撃網など、自衛隊の攻撃がすべて図に当たる名場面ではカタルシスが大爆発する。準備とそれがもたらす結果の因果関係を、言葉ではなく映像によってまざまざと見せる。短くも意味あるカットの丁寧な積み重ねによってのみ達成できることだ。メーサー車の光線は、光学合成で描かれている。ガイラを執拗に狙う光線が、触れた樹木を容赦なく薙ぎ倒してゆく。本来樹木は、ガイラにも自衛隊にも関係のないただの背景、舞台装置にすぎない。しかしその樹木が暴力的に切断されてゆく描写があってはじめて、観客はありもしない架空の殺人光線を信じ、その恐るべき威力とガイラが感じる痛みをありありと体感できるのである。円谷英二は人の視覚が何を信じ、何を信じないのかを生涯考え続けた人だ。『サンダ対ガイラ』がさりげなく達成した斬れ味は、庵野秀明樋口真嗣が必死で真似して尚これほどうまく描けたためしのない高みに達している。こういう映画こそ、プロフェッショナルの仕事というのだと思う。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)sawa:38[*] シーチキン[*] 水那岐[*] MSRkb

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