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[コメント] 木更津キャッツアイ ワールドシリーズ(2006/日)

楽しかった祭をしっかりと終わらせる。続編としてスゴく正しく美しいと思う。
Myurakz

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ドラマ「木更津キャッツアイ」は、主人公であるぶっさん(岡田准一)が「余命半年」と告げられる中で繰り広げられるお祭り騒ぎだった。祭はその終わりを約束されており、だからこそそのバカ騒ぎが楽しくも哀しかった。面白さの中に一抹の淋しさが加えられることで、物語の厚みが増していたんだと思う。

 映画での前作『木更津キャッツアイ 日本シリーズ』は、そんなお祭りの延長戦だった。ぶっさんの余命は一年に伸びており、ユッケ(ユンソナ)との恋愛という「最期の最期のお祭り」が描かれていた。

 そして今作、物語は「祭の後」へと歩を進めた。ぶっさんは既に亡く、キャッツの仲間は祭の余韻から解き放たれないままに、つまらない日々を過ごしている。約束された「祭の終わり」が、約束通りに訪れている。そしてその終わり=ぶっさんの死に様が、予想より遥かに現実的で重い形で訪れたことが、回想の中で描かれる。彼らは「祭の終わり」であるぶっさんの最期を、上手に消化できぬままここに至っていることを悔やんでいる。彼らが望まずとも時間は確実に過ぎ、祭は過去の思い出となっていく。

 今さらこの物語を映画として続ける意味はそこにあるんだろう。今作はバカ騒ぎの延長戦ではなく、輝きを失った青年たちの再生の物語になっている。主人公はぶっさんではなく、残されたキャッツのメンバーたちだ。彼らは再結集してぶっさんを呼び戻すことで過去の輝きを取り戻し、そして自分たちからぶっさんに「帰れ」 と告げることで祭を本当に終わらせる。アニ(塚本高史)がぶっさんに「呼んどいて何だけど、もう帰ってくんねえ?」と言ったとき、僕は正直「えぇ?それヒドくねぇ?」とも思ったんだけど、後から考えれば、だからこそこの物語に意味が在るんだろう。祭はおもろうてやがて哀しいものだけど、いつまでも哀しいままでは人生は進まない。残された彼らが幕を引くことで、祭に本当の価値が生じるんだ。その点で言えば、今回の映画化の「続編」としての有り様は大変に正しい。残されたメンバーの中心に“普通の人”であるバンビ(櫻井翔)を持ってきたのも、日常への回帰に重点が置かれているからだろう。

 そう考えると、実は父・公助(小日向文世)だけにぶっさんが見えないというのにも意味があるのかも知れない。彼だけはぶっさんの最期を看取り、ぶっさんから最期の言葉をもらっている。彼は父としての覚悟を持って、祭を既に終わらせていたってことなんだろう。

 という真面目な感想をすっかり抜きにしても、やっぱりこの祭メチャクチャ楽しい。特に今回はぶっさんが登場するまでかなり引っ張るので、そこからのテンションの上がりっぷりったらない。「キャッツ!ニャー!3年ぶりだぁ〜っ!」の掛け声を聞いた時には、「そうこれ!これだよ!俺が観たかったのこれ!」という突き抜けた興奮にチビりそうになった。その他の部分を観ても岡田准一のハマり具合はここへ来て神懸かっており、何だか待ちに待ったスゴいものを観せられている気分になる。

 また古田新太演ずるオジーのキャラクターも相変わらず秀逸。「ビールが好きなんですぅ」と嘆いたり、「OZZYS」を「02245」と読んだり、三振獲った後に上唇を巻き込んだ妙な表情をしていたり、どこまでが脚本でどこまでがアドリブなのかサッパリわからないけどメチャメチャ可笑しい。

 その他どこを切っても脱力系の笑いは冴えまくっており、しっとりとしたテーマと相まってご機嫌に楽しく暖かい映画になっていたように思う。正直これで終わりはもったいないけど、これで終わるからこそいい。

(評価:★5)

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