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[コメント] ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団(1974/日=タイ)

本作はウルトラマンの歴史を変えたキーとなる作品である。長文ですが、興味のある方はどうぞ・・・
dappene

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







本作はウルトラマンの歴史を変えたキーとなる作品である。

まずは本作の制作にいたった経緯を理解する必要がある。

本作のプロデューサー陣に名を連ねるソンポート・センゲンチャイ(以下サンゲンチャイ)なる人物はいったい何者なのか?ここがすべての原点である。

彼はタイの国費留学生として来日し、円谷英二のもとで特撮の勉強をする青年であった。英二はゴジラで得た特撮監督としての名声は轟いていたが、ウルトラマンの着想前〜そんな円谷プロ創生期のことである。英二の長男一(当時TBS社員)、次男皐(のぼる)と共にウルトラQからウルトラマンの制作現場に深く関係した。そこで彼が与えた作品への影響は今では知る由もないが、とにかくウルトラマンを世に送り出したスタッフのひとりであったことは否定できないであろう。

サンゲンチャイは日本で培ったノウハウをタイ国に持ち帰り、オリジナルの作品制作をしたかったのだろうが、やはりまだまだ現地スタッフだけでは作品完成までは至らない・・・そんな過渡期に本作は生まれたのだ。

サンゲンチャイが円谷プロに制作依頼し、皐が快諾し本作は創られた。

脚本にタイ人の名前はクレジットされていないが、大筋はタイ人の着想であろう。そもそも日本人がハヌマーンなる猿を主役に、しかもウルトラマンと同列に演じるということを着想するはずがない!(断言)。円谷プロ(主に円谷皐)も、亡き英二や一とも寝食を共にしたサンゲンチャイの頼みなので、無下にはできない。しかも怪獣ブームにかげりが見え、会社の経営も苦しい最中のおいしい仕事の依頼である。どうせタイでローカルに放映されるだけだろう・・・なーんて甘い気持ちで、この「異色作」を創ってしまったのではないのだろうか?

※ちなみにハヌマーンだが、インドの二大叙事詩であるラーマヤナ物語に出てくる猿神である。この物語は東南アジア諸国に伝播し、タイではラーマヤキンとして誰もが知る存在。インドネシアでは影絵やバリダンス、ケチャなどで今も尚、文化の中枢を担っています。以下Wikipediaより引用(ハヌマーン=インドの古典叙事詩ラーマーヤナに登場する、神通力を有した神猿。猿王国の将軍にして風神ヴァーユの子。ラーマヤナの主人公であるビシュヌ神の化身ラーマ王子を、単身あるいは猿軍団を率いて幾度も助ける。今でも民間信仰の対象として人気が高い。中国に伝わり、斉天大聖孫悟空のモデルになったとの説もある。)

本作、内容はともかく無事完成した。本作においてサンゲンチャイが円谷に支払った制作費は9万ドルだが、香港の会社が本作のアジア圏での上映権を12万ドルで買い付けたのだ。この取引はサンゲンチャイの委託を受け、全面的に円谷プロが行ったのだが、あろうことか円谷プロはサンゲンチャイの取り分を使ってしまったのだ。何に使ったかはわからないが、いろいろと大変な時期だったのだろう。

そして、この代金を請求してきたサンゲンチャイに対し、当時の社長円谷皐はとんでもない契約を取り交わす。

要はこういうことだ。「今は、サンゲンチャイに支払う金がないので、ウルトラマン関係の日本以外の権利を全部あげる!それで許してくれ!」サンゲンチャイとしても「長いつきあいである皐との仲でもあるし、ここは許してあげよう!ここでキレては亡きおやっさん(英二)に顔向けできない」なーんて感じでこの契約を呑んだのではないだろうか?

当時はウルトラマンシリーズの海外での権利はそれほど価値がなかったものと推測できる。もし、価値が高いのなら、この権利の一部をどこかに売って現金化し、サンゲンチャイの債務にあてれば済むことなのだから。たかだが数万ドルの話なのだから・・・

かくして、ウルトラQからウルトラマンタロウまでのTV全話、本作及びジャンボーグエースの海外におけるすべての権利は、ひとりのタイ人の手に渡ったのだ。なんということなのだ、こんなハチャメチャな作品のちっぽけな契約金の分配を支払えずに、数々の傑作達が売り飛ばされることになるなんて・・・日本コンテンツ史に残る悲劇である。

さて、時は流れて90年代。円谷プロはバンダイグループに吸収された。そして、上記のいきさつを知る人間はすべて他界してしまっていた。

バンダイ的手法でウルトラマンのマーチャンダイズは花開き、メジャーキャラクターとして君臨するに至った。新シリーズも定着し、順風満帆に思えたのだが、突然つまずくことになる。

円谷プロの正式許諾を受けたバンダイの海外子会社がウルトラマングッズを販売しようとしたら、謎のタイ人から「おいおい、君たち、その権利は私が持っているのに勝手に販売しちゃダメですよ!」とのお達しが・・・

これを受けてバンダイが怒り心頭「なんじゃいそのタイ人、ザケンナ!裁判じゃ!!!」てな具合で裁判になり、最高裁まで争うことに。外様のバンダイは功労者でもあるサンゲンチャイ相手に、契約書偽造の汚名をきせ、全面的に勝負を挑んだが完敗。「著作権以外はすべてサンゲンチャイのものである」と日本の最高裁が認めたのである。

そして、現在。

日本ではレア物扱いの本作は、タイでは「新作」であるような装丁でタイのコンビニに平然と並んでいる。そして、サンゲンチャイのマーチャンダイズの意欲は凄まじく、ありとあらゆるウルトラマングッズが売られている。その流通感は日本の比ではない。メインは高品質の初期シリーズの繰り返しなので、当然ながら大人気なのである。また、1973年に創造されたウルトラマンタロウから新作がないせいか、円谷プロに許諾を得ることなく新キャラクターであるミレニアム、ダーク、エリートなるものを創造してしまいます。これがまた、ハヌマーンと違って、なかなかなハイクオリティー。格好いいのである。

もはやサンゲンチャイはバンダイの傀儡である円谷プロとは断絶、円谷プロも手痛い裁判もあったので、これらのキャラを黙認。日タイで新キャラが独自に創られていくというパラレル時代へと突入しているのである。

ちなみにサンゲンチャイは、本作の撮影舞台であるアユタヤにウルトラマン博物館を建設中。目玉に実物大のウルトラマンを作るとのこと。

こうしてみると、タイに限っていえば、バンダイが牛耳るより、サンゲンチャイが商売した方が、ウルトラマンにとっていいことなのではないか?と思えてくるから不思議だ。

タイ版ウルトラマンHP http://www.ultraman.com/

なんとお宝壁紙 http://www.ultraman.com/download.html

ハヌマーンに関するかなり正確な記述(爆笑) http://my.reset.jp/~mars/btg/document18/hanuman01.html

(評価:★3)

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