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[コメント] 時をかける少女(2006/日)

この監督は「面白い映画を作ることの基本がちゃんとできている人」。脚本の面白さも私にとっては充分。久し振りに「これこそがプロの仕事だよなぁ…」というレベルのものを見せてもらった気がする。カネとるなら、どの脚本家もこのくらいの仕事をしてください。
4分33秒

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







背景美術が凄い。担当は『カリオストロの城』『ラピュタ』『火垂るの墓』の山本二三。あまりに精密。ロケハンした写真を極力忠実にトレースしたとしか思えない、実物と見紛うばかりの物凄い写実性。(←スクリーンで見ないとそこまでとは思わない。テレビじゃダメだと思う。)…なのに、その上で動くキャラは、影などの描き込みのほとんどない、ベタ塗りの一見手抜き風なアニメ絵。ちょっとアンバランスだ。…まあこれが細田監督の特徴なのだが。(ちなみに細田監督、画面の構成力やストーリー展開の緩急、カット割の並べ方が非常に器用なので、実写の監督をやらせても凄くいい仕事をすると思う。)

ぼくらのウォーゲーム!』と同じ人の作品というのがよく分かる。オープニングの作り方。引いたショットの多用。本作の異次元空間(?)と『デジモン』のネット空間の意匠はかなり似ている。

真琴がタイムリープ能力を乱用しまくって享楽の限りを尽くすシーンや、自分に都合の悪いことをやり直すがいつも別の問題が発生してうまくいかないというシーンは、なかなか楽しい。シリアスなシーンの緊迫感の出し方や盛り上げ方も良かった。…映画館で座った席はかなり後ろの一番端っこで、すぐ横にでっかい非常口表示灯が光っており、集中しにくい環境だったのだが、映画がよくできていたので、集中力が途切れることは全く無かった。

「Y字路」、細田監督が『どれみ』やった回にも出てこなかったっけ?デジャヴ。(ちなみに細田が演出したエピソード「どれみと魔女をやめた魔女」で、魔女をやめた魔女の声を務めたのは、原田知世である。)

 ⇒ネットで調べたら、やっぱりどれみにもY字路は登場していた。

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真琴が典型的な「ドジッ子」に設定されていたのはちょっと苦笑。さすがにもう旬を過ぎた感が…。(この「ドジッ子」も、細田監督が好んで使うネタらしい。)また、登場する高校生たちは、実世界のイマドキのそれらとはかなり生態が異なるように思う。…女の子たちは、制服のスカートこそ超ミニで今風なものの、みんな態度がかなり古風だ。…功介に告白する果穂ちゃんみたいに純情可憐(ってこの言葉が既に死語か)な娘、まだいるの?もはや天然記念物レベルでは。(これ、物凄い偏見でしょうか…。)男子たちも、なんか現代の高校生というにはあまりに大人びて見える。俺(37歳)が高校生のときは、確かにこんな感じだったが、今(2006年)の高校生はもっとジメッとしてるというか、視線が虚ろっぽいというか、いつも口が半開きっぽいというか…。(…おいおい。)監督は、その辺は無理して現代の若者像に近づけるような真似をせず、38歳の自分の感覚を優先して味付けしたのだと思う。…まあそれにしても、イマドキ男二人と女一人で毎日キャッチボールやフリーバッティングって、…ありえなくねー?とは思いましたが。

真琴は、私にとっては登場人物の中で一番魅力のない女性である。性格もごく普通だし、身体的にも髪が短く中性的で、特徴がなく、華がない。セックスアピールもない。Σ( ̄□ ̄) 真琴の胸に私の意識が行くことは、観劇中一度もなかった、不思議なことに。真琴の胸が大きかったか小さかったか、覚えていないくらいだ。また、真琴がいくら転げまわっても決してパンツは見えないのだが、見たいとも思わなかった。逆に見えそうなシーンで「見せないで!」とさえ思った。…これは貞本義行のキャラの特徴(アクがなく、実在感が希薄)から来る現象かもしれないが、確かにこの映画の鑑賞にそういうアピールは邪魔なだけなので、このキャラデザは成功と言える気がする。(…これでパンツが見えたりしてたら、もっと評価を落とすところだ、マジで。)…とは言え、私のような自主規制自主規制な人間には、(真琴の妹の)美雪や、(功介にコクる)果穂にクラッときたのは言うまでもない。(;´Д`)

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真琴の声、最初はかなり違和感があった。オーディションで数百名から選んだ、女優業もこなしているタレントとのことだが、声優としては素人。観てるうちに違和感はなくなってくるのだが、やはりプロの声優だったらどうなんだろうと思ってしまう。但し本人は物凄い美少女です。

功介と千昭は特に問題なし。この二人は若手俳優がアテている。…やっぱりプロの声優を使った場合も聞いてみたいが。

宮崎アニメで主役級を歴任した松田洋治が脇役で出演。かなりイジメられ・情けな系…。細田監督、別に何も意図してないよね?(^_^;

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バッハのゴルトベルク変奏曲、…少し面白かったですね。原作ではショパンのポロネーズが出てきたらしいですが。ゴルトベルクは細田監督のフェイヴァリットらしいです。私も一時期、グールドが弾いた新旧2種類のゴルトベルクにハマってました。…あ、キムタクがドラマでグールドを流行らす前です。

その他の音楽は普通に良かった。問題なし。

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2006.08.11 テアトル新宿にて鑑賞。

この映画館は、料金と引き換えに番号付きの「整理券」を配り、その番号順に10人程度ずつを会場に入らせる方式。指定席ではないため、会場に入ってからの座席争奪合戦は存在する。こういう形式は生まれて初めてだ…。子供の頃の映画館は、全部完全自由席制(地方なので、予約席なんて無かった)。人気のある映画だと立ち見なんてしょっちゅうだった。ここ10年くらいは完全指定席制のシネコンしか行ってなかった。ちなみに、ネットでの評判がすこぶるいいこの映画、立ち見も出ていた。

これだけよく出来た作品が、こんなに少ないスクリーン数でしか上映されないなんて…。Mottainai…。

(評価:★5)

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