[コメント] アモーレス・ペロス(2000/メキシコ)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
●過去とのかかわり -- because you are also what you have lost.
- 過去を捨てようとする者。過去を捨てた者。過去を捨て切れない者。
母親と兄、過去を捨てることに光を見出そうとするオクターヴィオ。夫を失い「子供の名はラミーロよ」と過去を過去とせず一人で生きていく決心を告げるスサーナ。兄も母親もスサーナも失い、自分の失った過去の大きさを初めて思い知る。
妻と二人の娘を捨ててヴァレリアと一緒になる決心をするダニエル。故郷スペインと両親を切り捨ててメキシコで成功を収めたヴァレリア。足を失い、ビルに自分の姿が無いことを確認し、唇を噛み締めながら、過去となった自分の栄光を捨て去るしかないことを悟る。
妻と娘を捨て、「死んだ」エル・チーヴォ。過去を捨て切ることもできず、失った過去の大きさの前にできることはただ泣き崩れるのみ。
- 失った過去を写し出す写真。
仲良さそうに兄貴と一緒に微笑んでいる写真を財布に入れているオクターヴィオ。故郷スペインの母との写真を戸棚の上に大事にしまっているモデル。ビルに掲げられた自分の姿。捨てた娘二人の写真を机で眺めるダニエル。兄の写真を渡し、殺しを依頼する弟。娘と妻の写真に自分の顔写真を添付し、娘の部屋に残す殺し屋。
- 過去と未来をつなぐ肉体。
剃られた頭髪。切断された右足。短く整える髪、髭、爪。体の一部を失うことに伴う再生のきっかけ。宗教的な意味合いもあるのだろう。
●『アモーレス・ペロス』 -- 犬並の愛
飼い主の心配をよそに、甘えたいときにだけ甘え、泣きたいときにだけ泣き、出てきたいときにだけ穴から出てくる犬。助けてもらっても、自分以外の全ての犬に襲い掛かる犬。独りよがりで自分勝手で気まぐれで裏切るもの。それが愛。
人間の愛だって所詮そんなもの。長男をより可愛がる兄弟の母親。娘を産んでもアルコールに溺れるだけのスサーナの母親。彼女らを置いて去ったであろう父親達。兄を襲うよう指示するオクターヴィオ。義弟に一時の救いを求めつつも最後には夫のもとへ戻るスサーナ。両親を置いてスペインを去ったヴァレリア。妻子を残し去るダニエル。ヘアバンドを巡って喧嘩するダニエルの娘達。お互いに罵り合うヴァレリアとダニエル。妻に電話してすぐに切るダニエル。殺し屋に兄の殺害を依頼する弟。弟を殺せばもっと高い金を払うと言う兄。妻子を捨て去るも、娘が忘れられず、自分が生きていることだけを伝え、旅に出るエル・チーヴォ。
そんなどうしようもなく惨めで勝手なのが人間の愛。しかし、それでも愛して、どん底に突き落とされ、写真になってしまった自分の過去に泣き崩れることで、再生し、救われることができるのもまた人間。
誰もがどん底に突き落とされるこの映画に、何とも言えぬ優しさを感じるのはそれ故こそである。
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