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[コメント] ゲド戦記(2006/日)

偉大すぎる親父を持つ者の苦悩。
水那岐

宮崎吾朗氏は、確かに期待されるレベル以上の作品を提供してくれた。それに、ここまで来て「親の七光り」などという陳腐な表現を使うことだけはすまい…そう思っていた俺だったが、その嫌な言葉に自らからめとられた吾朗氏を見たからには、多少言葉を汚すことをお許し願いたい。

吾朗氏の見せてくれた世界は、画面の色気も、キャラクターの面白みも、場面の広がりも持ち合わせてはいなかった。ストレートに言えば、親父のどの作品よりも面白くなかった。吾朗氏、今回は親父をやりこめることに躍起になって、結局親父の作劇法から一歩も逃れ出ていない、きわめて視野の狭い作品しか作り得なかったのではないか。

吾朗氏がどんな思いで、ファンタジー小説の名作というテーマを選んだのかにはあまり興味がない。ただし、これが吾朗氏の「本当にやりたかった題材」なのかは甚だ疑問だ。ジブリブランドを背負うがゆえに、『ナウシカ』『シュナの旅』のようなテキストを丁寧になぞらざるを得なかった吾朗氏の心の苦渋は察して余りある。テーマ先行主義で、胸のすく活劇などまったく描けなかった結果は、「無難なジブリ作品を作りました」という情けない発表法でしか公にはできなかった。

もちろん、キャラクター造形が俺の好みに近い、などといった卑近な褒め方はできなくもない。しかし、彼がこのまま「宮崎二世」として作品を発表し続ける限り、コアなファンも含めて観客はいずれ離れてゆくだろう。

宮崎吾朗は宮崎吾朗である。血縁上は駿と親子でも全く異なったクリエイターだ。こぢんまりとした親父作品の雛形を作るより、自由闊達なあなただけの作品を見せてくれ。それがジブリ帝国を瓦解に導く愚作となろうとも、華やかな形骸だけを残して内容をがらんとした空洞にしてしまうよりは、きっとずっと有意義な筈なのだ。

(評価:★3)

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