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[コメント] ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS(2003/日)

勢いに任せて突っ走った前作より一年。手塚監督の腕は早くも円熟味を帯び、ゆったりとしてかつ無駄のない物語を紡ぎ終えるに至った。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







随分と監督は物語を練り上げる力をため込んだものだと思う。とにかく無駄というものがこの物語にはない。もちろん、まったく新しい『モスラ対ゴジラ』を創り上げるのだ、という気概が前提にあってのことだ。

小泉博は『モスラ』から連なるこの映画のファンタジー部分の語り部。彼に信じられることによって小美人は決意をモスラに告げ、モスラは人間の味方となる。そして小泉の孫は実践者として、学校の校庭にモスラの紋章を机の列で描き、子供としてできる範囲の防衛行動をとる(彼にはこれで充分だ)。そしてこの時点での金子昇はモスラ・サイドの考えに疑問を抱き、自ら整備した機龍に絶対の信頼をおいて搭乗者たちを助ける立場をとる。彼はすなわち、前作より連なるこの映画の擬似リアリズム部分の体現者である。

そして、怪獣たちに目を向けてみよう。絶対的な破壊者としてリアル世界に存在する(と見えた、と書きたくなる理由は後述する)ゴジラに対し、必殺兵器アブソリュート・ゼロを失った機龍は通常兵器(メーザー砲も含めて!)の連射によってこれを迎え撃つ。そしてモスラは羽根の凄まじい羽ばたき、そしてリン粉と糸という、従来のモスラどおりのファンタジックな武器でゴジラを追いつめる。ここにおいて判るのは、モスラはあくまで非力だということだ。モスラはもともと破壊者ではなく、生きた兵器とでも言うべきゴジラに抗する術を知らない。そしてこの時点で、機龍のメカニック部分のみを信ずる金子はモスラを、小美人をほとんど信じていない。機龍がゴジラの攻撃で倒されても、その時こそ整備士としての己の力の見せ所だと思い修理に尽力する。

その時、再び小美人が今度は金子独りの前に現われる。なおもまた、ゴジラの骨は闘いを望んでいない、という言葉を携えて。金子はその言葉に耳を貸さず、ゴジラを倒すのが日本人全ての宿願だ、とはねつける。この時小美人は淋しげに微笑み、彼のために整備機器を瓦礫の下から取り出してやる。その後の展開を予見するかのように…。

そして、モスラの子らが糸でゴジラを縛り上げ、戦闘不能にした時点で、人間にとっては「暴走」である機龍の「ゴジラ」としての意志が覚醒する。金子はこの時、叔父が言っていた「神の領域」という言葉を反芻していたかもしれない。機龍は「メカ=ゴジラ」として動けないゴジラを抱えて日本海溝へと飛び、再びの眠りへとゴジラをいざなうのだ。小泉と孫は、あるいはモスラたちは非力だったが、信ずることによって生まれる愚直なまでの勇気によってゴジラを自らの手で葬らせたのだ(ハム太郎「勇気はときどき奇跡になるのだ」)。映画世界をリアルからファンタジーの領域に引きずり込むことによって、金子監督の『大怪獣総攻撃』に出演したモスラもどき(と敢えて言ってしまおう。あれはモスラではない怪獣の役割を演じたモスラであることは金子監督自身認めている)以外のモスラは、例外なく最後に勝利をおさめている。モスラは怪獣というよりは「神」に近しい存在だからだ。

同様にここでは、手塚監督は金子監督ばりに、何者かの怨念の集合体である「禍つ神」がゴジラであると設定したものと自分は勝手に解釈している。ゆえにそれを葬るには神の力が必要だったのだ。

神ならぬ人は存分に抗い、禍つ神を追いつめた。あとは神に任せよ。

小美人の偽らざる本心はこうだったのではないだろうか。『大怪獣総攻撃』のあとの『ゴジラ×メカゴジラ』は概してファンのブーイングに包まれていたが、手塚監督なりの解答はここに遅れて届けられたように思える。「人事を尽くして天命を待て」ということ。

金子監督の、あくまで人間の力を肯定する立場も充分同意できるが、これも日本人なりの潔さをこめた解答だったと感ずる。

★蛇足

一時期、女の子に「可愛い」と言わせんがためにファンシーな縫いぐるみと化したモスラが銀幕を飛び回り、随分不愉快な思いをしたものだが、初代モスラの形状を愛し、その複製製作を指示した手塚監督には本当にありがとうと言いたい。申し分のないスタイルのモスラを見て、その自然なフォルムに、やはりモスラはこうでなくちゃ、と改めて感じ入った。

(評価:★5)

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