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[コメント] セルピコ(1973/米)

自分の夢を追いかけた男の喪失の物語。いかにもアメリカンニューシネマの流れを踏襲した作品であったが、主人公が社会的に異端者でない分、心にズシリと響いた。
ごう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







セルピコは「お巡りさん」を愛していた。

「警察(組織)」ではなく「お巡りさん」である。

セルピコが子供の頃に見たお巡りさんのハナシ。子供心に本当に格好良かったのだろう。憧れたのだろう。その夢を叶えて警官になった時は本当に嬉しかったはずだ。家族や友人達と写真を撮るシーンにそれは表れている。

そもそもセルピコがあのような格好をしたのは地域住民と溶け込む為だった。勿論犯罪捜査の際に有利なようにというのが第一要因なのだろうが、その前のシーンで彼女とパーティーに出て正直に「警官」と答えたらみんな引いてしまうというシーンがある。自分が憧れたお巡りさんなのに、いざなってみたら他の人は胡散臭そうな顔をする。加えて現場に出れば腐敗の数々。それは彼にとってショックだったに違いない。

それでも彼は警官を辞めることも無く、ましてや「毒の入った井戸の水」(彼女がセルピコに話す例え話)などは飲まなかった。何故なら彼は誰よりも「お巡りさん」を愛していたから。信じていたから。そんな彼にとって警官は職業ではない。生き様なのである。警察組織の体裁や面目なんて本当にどうでもいいことなのだ。その証拠に警察の面目ばかり気にする上司や総監には容赦なく食いついていくし、はっきりと上司にそれを言われた時ついに彼は新聞社への告発をするのである。

ラスト、病院で彼に渡される金バッチ。彼は部長に問う。

「正直の報い?それとも顔を撃たれたバカ巡査だから?」

警官の中の警官から真に認められた時に貰うと思っていた金バッチ。皮肉なことについに彼はそれを手にした時に、むしろ自分にそれが与えられたことでその無意味さを知って涙を流す。と同時に子供の頃からの夢と決別することを決心し証言台へと上がり、自分の夢を追いかけた男はついに夢叶わぬまま犬を連れて去っていく。

彼はただ「お巡りさんに」なりたかっただけなのに。

(評価:★5)

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