[コメント] 動くな、死ね、甦れ!(1989/露)
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子供と大人。親と子。祖母と孫。男と女。教師と児童。インテリと労働者。日本人とロシア人。救いを乞う者と乞われる者。警察官と逃げる者。全ての者が己のことだけを考えているという閉塞感漂う空気。その空気を象徴するかのように頻発する「盗み」。例えば、市場での見知らぬ男による、母親の彼氏による母親に対する、児童による教師に対する、二人の児童によるワレルカに対する、ワレルカによる鉄道員の息子に対する、強盗団による宝石商に対するものが挙げられる。もっとも、劇中いくつかのカット(子供、身体障害者、シングルマザー、暴力など)で想起される『忘れられた人々』ほどの悲惨さはない。それはいつもワレルカの傍に付き添う思慮深いガーリヤのおかげだろう。
死体の写真を見せながらジャン・ポール・ベルモントのような台詞を吐いた後、背中を丸めてタバコの煙を燻らせながら周りを伺う、およそ子供に似つかわしくない姿。しかし、写真でしかしらない死を目の当たりにし、初めて血の暖かさを頬で知るその顔は紛れもない小学六年生。パーベル・ナザーロフの演技も上手く、対比が効果的だ。
また、逃走シーンの緊迫感、列車を降りた後の迫りくる死の匂いが二人の仲睦まじさと相乗して胸が苦しくなるほど。
冒頭からカメラが様々な独特の動きを見せる。美しいシーンは線路に沿って見られた。二人の追いかけっこのシーン、前述の仲睦まじいのシーンが心に残る。
全体として音楽には哀愁が漂っている。ワレルカが列車に飛び乗ろうとする女から救いを乞われ、これを無視するシーンの実験的な音楽も印象的だ。
ただ、他のコメンテータの方も言及されているように、ガーリヤがあまりにも神聖化されすぎではなかろうか。また、ラストの唐突なメタ化もあざとく感じた。
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