冒頭の交通事故シーンでも示唆されているように、息子の身に起きた不幸を振り払うために必死になるが、気がついた時に手を血に染めているのは母親自身だった、という話である。ボンヤリした息子に対して母親の行動原理は始終一貫して明確であり、息子を守るために金からモラルまで全てを投げ出してしまう。全てを投げ出して辿り着いた現実は、信じていた息子の過ちであり、息子を信じたがゆえに犯してしまった自身の罪であった。しかしそれは社会的には罪であるが、母親にとっては決して過ちでなく、彼女の行動原理にブレーキをかけるものではない。終盤、息子の代わりに罪を被った男の姿を前にして、母親は真実を明かすのではなく、ただ泣き崩れる。それは、自分と同じく血を流すであろう男の母親に対する謝罪であるのと同時に、母親への信頼の色を見せない男の様子を見て、「息子」と「母親」の間に潜むギャップに気付いてしまった悲しみであろう。