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[コメント] 松ヶ根乱射事件(2006/日)

雪が融けて土が顔を出すように、平穏という嘘で隠された醜悪は暴かれる。しかしまた雪が大地を覆い隠すように、暴かれかけた醜悪は平穏という嘘と暗黙の了解で再び隠蔽される。しかもそれは「季節」として逃れようのない「サイクル」であることへの絶望。雪(嘘)がとけては積もるというロケーションに寓意を込める的確。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







告発者はこの「ネズミども」のしぶとく腐臭を放ち続ける「営み」の強靭なサイクルに絶望し、その醜悪さを「気のせい」ではないか、と見て見ぬふりをする巡査長に憤る(ネズミとりに関するシークエンス)が、結局自らもネズミの子に過ぎないことを思い知らされ(父と春子を巡る対決シークエンス)、暗黙の了解に自己を埋没させることしか出来ない。精一杯の抵抗としての乱射はしかし「根を絶つ」ことなど出来ないという無力感が滲み、渇いた軽い銃声ははかなく虚空に消えていく。嘆かわしいことに、告発されるべき当事者に対してこそ届くべきその銃声は、一切の威力をもって浸透しないのだ。

見ているこちらの額に青筋が立つような露悪演出は堂に入ったもの。川越美和の愚鈍の悪意、三浦友和の欺瞞に戦慄。しかし最も禍々しいのは終盤の偽りの平穏。光太郎の如く吐き気を催しました。トリアー並みの疲労感。

この詠嘆と諦めにこそ山下敦弘の底知れず深いマジな憎悪と真摯が読み取れ、それには諸手を上げて支持したいのだが、正直鬱に突入してしまうのです。阿部和重の「シンセミア」のようなハッタリと軽薄なカタストロフが欲しいと思うのはまあ好みの世界。それにしても真面目な人ですね、山下さんは。「シンセミア」撮ってくれないかなあ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)赤い戦車[*] おーい粗茶[*] 3819695[*] けにろん[*]

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