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[コメント] ラストレター(2020/日)

Love Letter』や『四月物語』の『それから』であり岩井俊二的『こころ』。川村元気臭とロリコン臭が酷い。臭い臭い。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「アイディアとテクニックの人」岩井俊二は嫌いじゃないんです。『リップヴァンウィンクルの花嫁』は2010年代という時代を切り取った最高傑作だと思ってます。 本作のような「ロマンチック俊二」も悪くない。 『Love Letter』なんか大好物で、「青い珊瑚礁」をカラオケで歌いながら「お元気ですかー!」言いますよ。言っちゃいますよ。井上陽水歌いながら「お元気ですかぁ?」言いますよ。関係ないけど。

Love Letter』はプルースト「失われた時を求めて」を引っ張り出してきましたが、この映画では夏目漱石全集を持ち出します。つまりこの映画は、『Love Letter』や『四月物語』の『それから』であり『こころ』なのです。『こころ』ということは、死者に心を奪われた者の物語というわけです。小道具も手紙だし。

夏目漱石『こころ』を映画化したのは岩井俊二が大好きな市川崑です。 岩井俊二の逆光は市川崑ですし(『市川崑物語』で告白している)、ドローンを手に入れた岩井俊二はあの市川崑のあり得ない俯瞰ショットを手に入れたのです。

ドローン俯瞰の他は、ほとんど手持ちカメラで撮影され、ふわふわとした画面が続きます。 私、思うんですが、この映画は「未咲」の視点で撮られているのではないでしょうか。 未咲の未練が、妹や元カレや娘を動かし、その魂が去っていくまでの物語。

以上。

以下、余談。

Love Letter』(1995年)や『四月物語』(1998年)は、かれこれ四半世紀も前ですよ。 その中山美穂と松たか子の扱い、広瀬すずと『天気の子』森七菜の扱いと比べてどうよ?どうなのよ?

最初から「おや?」と思ったんです。

花とアリス』は、冒頭から「キラッキラした女子高生2人を撮りますよ」宣言で始まるんですね。 この映画の始まりも一瞬同様に思えるのですが、日陰から始まるんです。もっと降り注ぐ日差しの下で、小滝も利用しながら、キラッキラした描写が可能だったはずなんです。 ああ、岩井俊二(57)も歳をとったな。そう思いました。『Love Letter』『四月物語』は30歳代、『花とアリス』ですら40歳そこそこ。四捨五入したら還暦になる年齢になったら、だいぶ落ち着くんだな。そう思ってました。

大間違い。

肌もあらわな薄手ワンピの美少女二人が白いデカ犬を散歩させてる姿の、まあイヤラシイこと。この「キラッキラ」のために抑制していたんですよ。年齢を経た分、むしろ狡猾。まるで、都合よくお婆さんは川へ洗濯お爺さんは山へ柴刈りに追い出して、美少女二人っきりの家に中年男が上がり込むくらい狡猾。 廃校舎(正しくは改築の取り壊し前だけど)という小道具が、青春の終焉のメタファーだと思ったら、そこでキラッキラ美少女二人と出会っちゃうんですよ。性春は終わらないって話ですよ。 私は岩井俊二に年齢が近い分、美少女に向ける視線にギョッとしたし(年齢の離れてる大林宣彦の時は感じないんだけど)、中山美穂や松たか子に年齢が近いヨメはキラッキラ美少女二人との格差にギョッとしてたよ。いずれにせよ「時の流れは恐ろしい」という映画なのです(<誤った解釈)。

どうでもいい話だけど、岩井俊二の好みの顔ってあるよね。 中山美穂や広瀬すずは主役系美人顔。脇の可愛い系が松たか子であり、酒井美紀であり森七菜なんだと思うんです。もうね、森七菜を撮りたくて仕方がねーんだよ!感があるよ、この映画。

他にも、「おや?」と思ったことがあるんです。 いつもの岩井俊二っぽくない感じがしたんです。 何て言ったらいいのかな、同窓会のくだりとか遺書を読まないとか、人物の感情が自然じゃない感じがするのです。

端的に言うと、「登場人物の感情の流れを不自然にしてでもオチを優先させている」というか「ゴールのためなら手段を選ばない」というか「泣かせられれば設定なんか不自然だっていいんだ」というか「てゆーか設定だの感情の流れだのうるせえこと言ってんのは一部のシネフィルで多くの観客には関係ねーんだよ」という感じがしたんです。 観ている最中、ずっと。 似た感覚の映画があったな。何だったっけな?この嫌な感覚。

やっと思い出した。『君の名は』。

さらに余談

地名をテロップで出すんですね。岩井俊二にしては珍しい。 珍しいことをするということは、そこに「意図」があると思うんです。 たしか岩井俊二も宮城出身なんですよね。 「死者に心を奪われた者の物語」であることを考えると、この映画の裏テーマは東日本大震災なのではないかと思うのです。 「キラッキラ」女子たちは、この世界の「希望」なのかもしれません。

(20.01.26 ユナイテッド・シネマとしまえんにて鑑賞)

(評価:★3)

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