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[コメント] ぼくんち(2002/日)

マンガ「ぼくんち」の魅力とは「社会の最低辺に生きるどうしようもない人々の、切なくも可笑しい無駄なあがき」であり、それは正に西原理恵子の作家性の魅力そのものなんだと思います。その意味で今作には、最も大事なものが抜け落ちているんです。
Myurakz

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







言うまでもなく僕自身がサイバラ世界をこよなく愛する一人であるため、この欠点だけはどうしても気になってしょうがなかった。それは「人々がどうしようもなくない」ってこと。智恵も力も金もない社会的にはクズと呼ばれるような人たちが、吹き溜まりでお互いに痛めつけ合って、それでも笑って生きて生きて生きる。それが「何故か」優しくて哀しいのが「ぼくんち」なんです。そんな中で家族3人が真直ぐで不器用な愛情をぶつけ合うのが「ぼくんち」なんです。

だから母ちゃんがあんなにしっかり二太のことを考えたりしちゃダメなんです。母ちゃんが男と自分のことしか考えてないからこそ、かの子の愛が際立つんです。3人の寂しさが際立つんです。大体そんなに心配できる母ちゃんだったら、半年前に勝手に出て行っちゃってる理由がわからなくなる。

岸部一徳演ずる末吉マモルも同様です。あれは媚びを売る以外何もできないダメダメなお父ちゃんが、ダメなりに一生懸命子供を育てるから優しいんです。仕事の手を止めて子供に絵を書かせるような、文化的素養や知識のあるお父ちゃんじゃダメってことにならない。この物語の人々が持ってる一番大切なモノは、素養や知識なんていうわかりやすいものじゃないんです。

この欠点は結局映画全体に及んでいて、「救いがないのに何故か優しい」マンガだったのが、「普通に人情味のある」映画になっちゃってる。これはこの映画の根幹に関わる問題だと思っています。制作者側が軸をズラしたんです。マイルドにマイルドにしながらね。

「映画ならでは」を出そうとした新設定「かの子が二太の本当の母」も、僕は失敗だと思っています。あれは姉が2人の弟を母のように育てるから切ないんです。母が子を養うんじゃ当たり前だよ。一太と今一つコミュニケーションが上手くいかないのも、これじゃ「二太だけは自分の子供だから」ってことになりかねない。

作家性の比重が大きい原作を映画化するのに、監督の独自性を打ち出すのはやっぱり難しいことなんだと改めて感じました。むしろ「監督なりに作家性をより伸ばして表現する」が真っ当なアプローチなんじゃないかな。二太が急にこちらを向いて説明を始めるシーンなんかでもそう思いました。「水平島」の住人になりたくて行ったのに、高いところから島を俯瞰してる気分になるんです。かなりブツ切れの展開のせいもあるんだと思う。原作未読の人は面白いのかな。

ただ、二太が仮面の男たちの傘の下を歩くシーン、あれはちょっと良かった。それまではドシャ降りの世界の中でも色んな人の傘の下にいて幸せだった二太、それがあの傘を抜けた瞬間にちょっとだけ心が成長したんだと僕は思いました。「島を出よう」と決意した二太が見上げた空は、ドシャ降りが止んで青く晴れわたり始めた。

結論としては、「原作のさまざまエピソードをブツ切れで盛り込んだ割に、大事な部分を入れ忘れてしまった映画。でも原作大好きでその世界を見せてはくれたので3点」という、映画評としては非常に曖昧な点数になっちゃいました。ごめんなさい。

あ、あと一つ。色んな脇役の人が出てる中、今田耕治は映画なりの「安藤くん」を好演してたと思う。

(評価:★3)

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