[コメント] ゾンビ(1978/米=伊)
映画を見終った人むけのレビューです。
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ショッピングセンターの刹那の富に生かされる偽りの生に女は気付いていた。いい夢と悪い夢を同時に見ているような、緩慢に死につつある生ける屍としての生から逃れるため、女は育児書を読み、ヘリの操縦と銃の扱いを学んだ。
片や、男は富の亡者となった。中絶を遠回しに迫り、偽りの富でプロポーズを行い、女に拒否される。ますます富にのめり込んだ男は、暴走族相手に「自分の富」を守るために矮小な立ち回りを演じた末、living deadに取り囲まれて命を落とす。この痛々しい男が最終的に最も醜いliving deadに成り果てる。女はこのことを予感していたのだろう。「生前」から女が投げかける眼差しの冷たさ。男はすでに生ける屍=死んだように生きる生者だったのだ。生きている死者と、死んだように生きる生者。そこに大きな違いはない。大きな違いがないからこそ、容易に取り込まれてしまうことの恐ろしさ。さらには、男の弱さを否定する力を、誰しもが持ち得ることはないということの恐ろしさ。
ヘリでの脱出は夜明けに行われる。いい夢と悪い夢を同時にみているようなショッピングセンターでの生活を、「実感が湧かないの」と語った女にとってのこの脱出は、「目覚め」である。目覚めはいつでも苦しいものだが、目覚めた人はそれまでよりハッキリした輪郭を帯びるものだ、最後に女が最も美しく撮られるのは当然の帰結である。
夢をみているような、という点では、あのパイ投げの唐突さが、夢としての妙なリアルを持って迫ってくるように思う。
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