[コメント] イノセンス(2004/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
公開2日目午後1時からの回。私の前にいた男が窓口で聞いている。「アニメなんですか」そう男はつぶやくと切符を買わずに立ち去った。敏腕鈴木プロデューサーの働きか、朝4時台のTVでイノセンスの紹介番組を見たばかりだった私はけっこう期待していた。もしかしたらこの男もTVCMなど見て関心を持った一般の人かも知れない。アニメだと聞いて見るのをやめるなんて信じられない。だが意外と普通の大人の反応かも知れない。場内4割の入り。公開前試写を見ている妻は「完成度がめちゃくちゃ高い。話は難しい。絵と音がともかくすごい」と感想を述べた後、行くならもう1度見てもいい、と一緒に来たのである。「背景はブレードランナーで話はマトリックス」とも付け加えた。実写作品のアニメ版かい。面白ければどちらでもいい。
見終わって、確かに画面の完成度はすごく高い。バトーの眼が白い円筒形なので、表情がわからない。時々それがつぶった上瞼に見える。そういうところはうまいと思った。話はシンプルであっさりしている。「仕事の話に入らせてくれ」と劇中言われる衒学的な人間論が退屈。ミルトンから孔子から引用してくれるのだが、引きこもりの受験秀才の顔が思い浮かぶ。サイバーハードボイルド風のセリフ回しも、銀河英雄伝説ほど成功しているとは思えない。存在感を吹き込まれているのは、人形と犬だけで、人間の存在論を述べ立てている割に、人間はうすっぺらな2次元アニメである。朝見たTVのメイキング版の方がよほど面白かった。近未来状況設定のセリフはアニメ好きな中学生の解説を聞いているようだった。
民謡歌手のコーラスと共に進行する画面はたしかに戦慄ものだが、過ぎてしまえばそれだけのものと思える。劇場を出てあたりをみれば、現実のなんでもない風景の方がよほど細部がきちんと構成されていていっさい手抜きのないリアリティがある。アニメは画面にあるものすべて作らなければならないが、実写版はそこにあるものを撮ればいい。ところで現実にあるものは、建造物一つ取ってみても制作日数6ヶ月何億円といったものがざらである。単なるスナップ写真でも、撮られたものをすべて再現しようとすれば莫大な費用がかかるはずだ。結局アニメは実写を越えられないのではないか。そんなくだらないことを考えた。攻殻機動隊をもう一度見直してみるか、とは思った。「10年、20年たっても鑑賞に耐えうる作品」と監督は公開挨拶で言っていた。その言葉にウソはないと思うが、映画に求めているものがあるいは違ったのかも知れない。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (6 人) | [*] [*] [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。