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[コメント] グッバイ、レーニン!(2003/独)

幻想の東ドイツ。
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ドイツ統合を従来とは異なる視点から見つめた作品で、公開前からかなり期待していた。西ドイツの難民が東ドイツに亡命している姿として捉える部分など、ユニークな視点はある程度発揮されていた。

しかし、いまいち乗り切れない部分が多かったのも事実。

主人公はかつての東ドイツを再現しようと奮闘するが、その姿は本作の姿そのものと重なる。なぜならこの作品自体が統一後のドイツで撮影されているのだから、本作冒頭における崩壊前の東ドイツのシーンも同様に再現による東ドイツだからだ。

そして、そこで描かれる「理想社会としての東ドイツ」にはいかほどの説得力があったのだろうか。資本主義流入後身を持ち崩した元校長などを登場させたが、それぐらいの表現で説得力を持ち得ているだろうか。私には本作全体が、現在のドイツでの不遇を少しでも慰めるために勝手に理想的な東ドイツをでっちあげた甘い回顧主義の賜物に思えた(日本で言うなら「元の濁りの田沼恋しき」といったところだろうか、その濁り具合の感覚などはとうの昔に忘れてしまっているくせに)。倒れる前に母は自由化のデモに参加した息子の姿を見ていたはずなのに、いつのまにか家族間の愛情話のみに収束してしまったが、もっとこの母子の姿を通して資本主義のドイツの価値観とかつての東ドイツの価値観との違いについて、がっぷり四つで取り組んでほしかった。これだけでは「グッバイ、レーニン」ではなく、「別れても離れられないレーニン」だ。

あと、中途半端にキューブリック的要素をちりばめているのも気になった。本作のテーマとは相容れず、むしろ邪魔くさかった。本作の背景や素材はとても魅力的なのだが、この監督の映像的センスについて特筆すべきところはまったくなかった。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)kirua しゅんたろー[*] MM[*] ペペロンチーノ[*] けにろん[*] ざいあす[*] ねこすけ[*]

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