[コメント] ロスト・イン・トランスレーション(2003/米=日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
そしてそのワカラナイことがまた面白い、と思ってしまう自分にとっては、特に不快を感じる要素はありませんでした。
そもそも他国の文化への「理解」というのはどういうことなのだろう。もちろん偏見やモロモロを矯正したりという意味でも、理解を深めるということは大切なことだと思う。しかしだからといって、逆に言えばどう頑張ったって日本人が他国の人の「視線」を通してモノを見ることなんてできないワケで。目に映るものまで矯正するのは何か違うのではないか、と思ったりする。加えてその土地に自ら住み着きたいという目的があるならいざ知らず、仕事で嫌々とか、好きな人にくっついて迷い込んだりと、気負いなんてロクにない人たちという設定あるワケで。そんな人たちだからこその視線の率直さって、案外いろいろなことを教えてくれるものだと思う。
ただ、この映画は別に外国人の目を通した日本の最大公約数的イメージを描くなんて大それたものでもなく、もっとプライベートな心象風景(実際多少のデフォルメ入ってる)をスケッチしたもの、といった趣に近い気がする。この国の事物に注がれるヒロインやボブの視線と、例の少々下世話なアメリカ女優や絨毯の色に執着する母国の妻に送る視線。両者の質に果たして大差があるかといえば、意外なほどないような気がするのだが。
それよりむしろ、この映画で大切にされているのは、そういった「他者」の間に身を置いて心が揺れ動く過程。淡い期待や幻滅、居場所を見失って途方に暮れる様、そして行き着く先の「孤独」。そういった微妙な移ろいは、むしろ丁寧に描かれていると思う。
ヒロイン(ゴメンナサイ、名前忘れました)とボブの間を流れるシンパシー。居場所を見失ってさまよう旅行者が、「人生」という名の途方もなく長い時の旅の中で、違う事情でも同じようにさまよっている人を見かけたらどう思うだろう。おそらくそれは「恋愛」とは別物かもしれないが、無性にそのことがいとおしく思えたり。束の間出会った二人がそれぞれの道に戻り、離れて生活を送りつつも時折そのことをふと思い出し、ひとりだけどひとりじゃない、と思えることのいとおしさ。
映画の出来としてはそれほど素晴らしいという気もしないのだけど、その分ヘンに気負ったり背伸びをするワケでもなく、ただ私的に描きたいことを描きたいように、という等身大のスタンスが伝わってくる映画は好感が持てる。そして何より自分にとっては、昔海外を一人旅したときに、見慣れぬ風景や知らない人たちに接した時の戸惑いや、通じ合えた気になってうれしくなったこと、そしてあえて言葉にしたくない想いの数々を久し振りに思い出せたということでも、このハンドメイドな映画に「ありがとう」と言いたい。
とってもチャーミングな映画だと思うよ、ソフィア。
(2005/04/18)
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