[コメント] 博士の愛した数式(2005/日)
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深津絵里の明るさは好ましく、寺尾や浅丘もなかなか頑張っていた。だが、それを吉岡がダメにしているとの観が拭い去れなかった。この俳優、『三丁目の夕日』のような漫画的キャラクターでしか演技が生きないのではないか。彼が出てくる限り、映画はある一定の真摯さ加減を失ってしまうように思えてならない。
ところで、この映画はどれくらいの世代をターゲットにしているのだろう?もちろん「ターゲットなんて物はない」との答えもあって然るべきなのだが、自分が観るかぎり子供も含めたファミリー向けのように映った。そんな映画で、浅丘の抱えるドロドロした感情は明らかにされるべきだったのだろうか?自分としてはあのシーンはもっと抑えても良さそうに思える。
不自然なことと言えば、子供と寺尾との関係である。学問に身を投じて結婚などしなかった偏屈な学者が、その当時はまだまだ多かったのかもしれないが、そういう人間が子供のよき友たる気さくさを持ち得るだろうか?また家政婦ならともかく、当の子供が、いつも同じリアクションをとり、ときどき奇矯な発言をしては落ち込む博士と楽しく遊べるものだろうか。これは映画以前の問題かもしれないが…。
そして和解ののち、寺尾・浅丘・深津はどうなったのだろう。いくら浅丘が勝手に三角関係を想定し、その破壊に躍起になったとはいえ、和解ののちも親子のような関係を完全に認めたのだろうか。いささかの愛情すら芽生えない生活が続くのはちょっと不自然だ。そのためにかすがいとしての子供がいる、と言ってしまえばそれまでなのだが。
どうにもこの作品は、数学を人生の彩りに用いようとして、そのあげく肝心の人間描写に失敗しているように見えた。
蛇足。花盛りの山道や森といったものの美しさの描写もいいだろうが、これはそういうものの描写に終始してはいけない作品のように思えるのだが…。これが小泉堯史の持ち味なら言うだけ無駄であるにせよ。
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