[コメント] まあだだよ(1993/日)
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それから、井川比佐志らが試しに泥棒する件、村松が馬に睨まれる件、村松が汽車の窓から猫を見る件などの(原作者らしい)幻覚的なショットは、間の開いた編集のタイミングも含め抜群。後期小林正樹と類似する世界で『夢』の延長だがリアリズム形式に挟みこむことにより効果を増している。冒頭の授業や宴席での薬屋さんの行列など、望遠を駆使した幾つかの室内撮影も素晴らしく、煙草の煙や砂塵など再三にわたる煙のショットへの拘りもいい。冒頭の教室の扉だけを延々撮るショットはトリュフォーみたいで印象に残る。
話は退屈。たしか戦後社会派として名を成したはずのクロサワ遺作だが、かつて並び評されたアンジェイ・ワイダとは随分違う処に来ちゃっていたのだなあと思わざるを得ない。金持ちに違いない教え子らに恵まれ、彼等に建てて貰った新築の家で、窓から見える廃墟に見向きもせず迷い猫の心配ばかりして、宴席で子供たちに「夢に向かって努力しなさい」と告げてもそこに説得力は何もない。
社会派にとって廃墟は想像力の源だったはずだろう。『素晴らしき日曜日』や『酔いどれ天使』は何だったのか。作品群を貫く処に作家性が現れるとしたら本作は変節。意欲的だった『夢』や『八月の狂詩曲』が評価されずひねくれて、理解者だけを身辺にはべらせて唯我独尊に閉じこもっちゃったように見え、猫を失って憔悴した村松の姿とWる。
老人の自虐ギャグは平凡、歌唱連発は古臭いがそういう世代なんだろう。遺作が大映映画とはどういう因縁だったのだろうか。山田洋次から借りた具合なキャストのなか香川京子が最後まで輝いていたのを確認できるのは嬉しい。
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