[コメント] ブロークバック・マウンテン(2005/米)
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イニス(ヒース・レジャー)は最期まで自分を許せないでいたと思う。 そんなイニスにとって、ブロークバック・マウンテンでジャックと別れた後に吐き気を催し、自らを虐げたのは自然の反応だろうし、ジャックが死んだときに集団暴行を思い描いた状景も、イニスが子供の頃に惨殺された隣人の同性愛者のエピソードに重ね合わせ、ジャックの最期と言うよりもむしろ自分が迎えるべき死をそのように覚悟していたことを示しているのではないだろうか? ジャックとの機会を限定したのも自らへの戒めだったのだろう。
それに対しジャックは、翌年もイニスを求めてブロークバックに行き、久しぶりの再会の場で2人で牧場を経営しようと提案した。それを拒まれた後もイニスの元に訪れ続け、イニスの離婚を知り何の障害もないと喜んだジャックは門前払いを食らってしまった。そんなジャックはメキシコに渡り、それをイニスに抜け抜けと打ち明けてしまう。 ジャックがイニス以外の選択肢を見出したのは、イニスが自らの可能性を限定させていったのとは対照的だし、行動が短絡的なのも対照的だ。
イニスの妻アルマは夫とジャックとの仲を知っていつつも、表向きは同性愛とは別の理由で離婚した。その後、折を計ったように釣り針に付けた手紙のトリックを妻から聞かされたイニスは何の申し開きもしない。イニスはもとよりその責めを甘んじて受ける腹積もりだったのだろう。ただ、出来ればその辛苦は一人で背負いたかったに違いない。幸か不幸か前妻以外にそれを悟られることは無かった。 好意を寄せてくれる女性がいても、そんなイニスに新たな家族を築くのは土台無理だった。
ラストでは、おそらく何も知らないまま、ずっと自分を慕ってくれた娘の結婚式への招待に対し、最初は仕事でいけないと断りながらもフィアンセの愛情を確かめた後に"YES."と答えるが、それはジャックを一生愛し続ける自分に嘘偽りが無いことに確信ができたからだろう。 葛藤は無くなったけれど其処には生涯引き摺るであろう陰がある。そんなイニスの切ないエンディングでした。
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