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[コメント] 日本沈没(2006/日)

新設定・新展開を持って作り上げた平成版『日本沈没』。だが製作者側の志の高さに反比例するかのように、作品そのものの出来は何と中途半端なことか。
荒馬大介

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ……視点を一般市民のところにまで下げ、それらを中心にしてドラマを展開しようとする気持ちは分かる。実際本編中では、“日本沈没”という絶望的状況を前にして、どういったことが起きるかを描こうとしている。株価の急落、世界的な円売り状態、銀行では取り付け騒ぎが起き、海外へ脱出しようとする人達で大混乱が発生。さらには避難先での日本人排他運動と、なるほどこれは実際に起こるかもしれないな、と思わせる要素はいくつも存在している。

 そこだけ観れば非常に良い映画に見える。だが既に多くの方が触れているが、肝心のドラマ部分がどうにも弱い。

 例えば小野寺と玲子の周囲では、あまり絶望的な状況に陥っている様子が見られない。上に挙げたような状況が実際に画面の中で描かれているというのに、こと二人のシーンに関しては、小野寺も玲子も揃ってそれらを不安がる様子も見せず、その関係が緊密になっていく様子だけが描かれていく。絶望的といえば、せいぜい小野寺が火山灰降りしきる街の中で、赤子を抱えて「すみません……」とつぶやき続ける母親と出会うシーンくらいしかない。いっそのこと、本当に市井の人間を主人公にするのであれば、小野寺も玲子も全部すっ飛ばし、ひょっとこの常連客達の放浪旅と、政府関係者の苦悩だけに絞ってしまってもいいくらいだ。ただ実際にそれをやってしまうと、興行収入50億になろうかという大ヒット映画にはおそらくなってないだろう。そこが難しい。

 では逆に、小野寺と玲子の恋愛模様だけをクローズアップしてみるとどうなるか? それが出来るのであればむしろ徹して欲しかったくらいだが、最終的に小野寺の犠牲行為によって日本が救われるという結末からすると、超個人的な思想と感情で日本の運命が決まることになってしまう。「僕がこうすることで彼女が幸せになれれば……」うーん、やっぱり観たくないな、これは。観る人によっては感動するかもしれないが、自分は受け入れたくない作品になっていただろう。

 つまり、いろいろなところに焦点を当てようとしているものの、どうにも掘り下げ不足。虫眼鏡を沢山用意して一気に紙を燃やそうとしているのだが、光の収束点を誤っていたり、はたまた虫眼鏡が小さすぎたりして上手く行っておらず、所々が焦げただけという状況なのである。ラストに虫食いのごとく残った日本列島は、まるで中途半端になった映画そのものの姿を見るようだ。

 ……本作に対する不満は全てそこが浅いドラマに対するものである。しかしこの話であれば、いっそのこと全10話ぐらいの本格特撮TVシリーズにした方がよかったんじゃないか?

(評価:★3)

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