[コメント] 転々(2007/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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「つむじの匂いは崖クサい(<今回一番笑った)」がよい例なのだけど、監督の作品にかかせない「豆ギャグ」の発想や、時おり見せる「寂寥感」の描写は、監督の少年期の感性から導かれているものが多いと思う。「崖クサい」っていう感じは、言葉のシュールな面白さではあるけれど、同時に、私なんかは子供のときに遊んでいて、ふと我を取り戻した時なんかのリアルな感覚でもあるので「わかる、わかる」という笑いに繋がる。(だから土手みたいなところで遊んだことのない人は「シュールな言葉遊び」以上の意味がわからないかも知れない。)私だけかも知れないが、三木監督作品は『亀…』にしても『図鑑…』にしても、深夜枠っぽい脱力系コメディというより、むしろ胸キュン作品なのです。
で、本作は予告…というか、正確にいえばDVDのパッケージの雰囲気で、今までのギャク>叙情から、叙情>ギャグに、より向かっているものと察せられ、「これぞ三木監督の真骨頂!」であるに違いないと、とても期待したのだった。
ゆるゆるとした散歩というのが「脱力」と「叙情」を表現するのにとてもマッチし、かつ散歩で描かれる町(道)のロケ場所も、写真家のスナップのようには気合の入っていない感じでいながら、でもかなり吟味もされていて、という感じでとても上手いと思った。
井の頭公園から始まって、中央線沿いに、中野坂上あたりから山手通りを西新宿へ、今度は明治通りを上って都電荒川線の踏み切りを渡って…作品にとって重要ではないと思うけど、道程もだいたい正確で、個人的にはちょっと嬉しかった(この後キョンキョンのスナックあたりからちょっと地理関係はわからなくなっちゃうのだが)。望遠をあまり使わない被写界深度の浅い画面で一緒に歩きながら撮っているような撮影も良かった。
少年期の情感こそ監督の本質だとすれば、それを従来の作品以上に前面に押し出した結果として、それは監督のナイーブな部分に踏み込んだものとなっても何ら不思議でない。そうやって描かれてきた「オヤジと二人きりの散歩」が監督の憧憬であるし、「美人で気楽な感じな母親」に「バカな妹(でもカワイイ)」というのが、男たちの散歩を足止めさせてしまうという、場面の割り込み方、その母性に絡めとられるような感じの描写に、「オヤジとの散歩」と同様に、いやそれ以上に監督の憧憬を見る。通過するジェットコースターを見送る「母と妹」こそがその頂点で。
思いのほか率直に憧憬を描いた本作の暖かみにホッとする反面で、一抹の物足りなさもあるといえばある。最後、また女たちの元を去って、父と息子の物語に回帰するのだから、「お前何か得るものがあったか?」なんていうよりも、女房を殴り殺してしまって「これからの時間」を失ってしまった男から、大学8年生の、もう「何かを決めなければいけない」年頃の息子へ伝える、覚悟というか、苦いエールを感じさせるような何かがあっても良かったんじゃないか、オヤジの飄々としたところに息子は救われすぎというか、ちょっと監督が自分を突き放すようなところがあってもいいのかなあ…とも思った。
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