[コメント] 実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(2007/日)
東大の安田講堂のアノ日、御茶ノ水から安田講堂篭城軍を支援する別働隊が合流すべく行動を開始した。その道筋にある私の小学校は緊急避難をさせられた。私の愛す御茶ノ水の町は戦場のようだった。小学生だった私には状況はさっぱり理解出来なかったが、私の町が壊されていく様に高揚した。興奮した。そして怒りを覚えた。
あれが「革命」の現場だったのか・・・
中学生になった私は御茶ノ水で学生生活を過ごし、本作で描かれた重信房子・遠山美枝子が活動した大学へ入った。大学のあちらこちらに各セクトのアジ看板があるものの、ヘルメットもゲバ棒もなかった。怖いもの見たさで集会というものに顔を出してもみたが、彼等の言葉は難解で「異星人」のようだった。たった数年で学生運動が瓦解し、「時代遅れ」になった痕跡があるだけだった。岡林信康の「友よ」は聞こえず、時代はニューミュージックと名を変えた元フォークが軽快に恋の詩を奏でていた。
正直言って、彼等全共闘世代が羨ましく思う。内容はともかくアレだけのパワーを発揮し日本という国家を動かしたエネルギーは明治維新と昭和の戦争、そしてこの学生運動しかないではないか。ひとつ歯車がズレれば共産革命が起きたやもしれなかったのだ。比して自身の世代が学生時代に成したことといえば女の子と車と音楽とパチンコだけだった。時代に乗り遅れた世代は何の目的も求心力もなく青春を無為に過ごした。だから私は彼等に憧れる。
そして同時に蔑む。
荒井由美が「就職が決まって髪を切ってきた時、もう若くないさと言い訳した」と書いた。彼等は最も憎むべき敵だったはずの国家や資本主義者たちに忠誠を尽くすかのように働き、後のバブルに象徴されるように日本を繁栄させた。政治的にはリベラルという仮面を被り、自身が「転向」したことなど忘れたかのようにだ。アレは時代の「流行」に過ぎなかったのだろうか?ニュートラファッションや竹の子族と同等に扱われても仕方のないような「流行」だったのか?
現在でも多くの全共闘世代は「総括」を避けている。いや「今の学生たちは・・・」という言葉を枕詞にして語る説教臭いウンチクにはノスタルジーを超えて満足感すら匂わせている。ニュースキャスターと称する者たちに共通する匂いである。彼等には御茶ノ水の道路や新宿駅を破壊した自己嫌悪は無い。そんな彼等が本作に熱いコメントを寄せている。この事件を取り上げた若松監督を賛美している。深く暗い「闇」を直視したと。
確かにこの事件はいつか誰かが直視して総括した一般映画を製作しなければならなかった。これまで『突入せよ! あさま山荘事件』では同胞である警察側から描き、国民の目線から見た事件の後半を解明してくれた。『光の雨』では現代の若者の目線からみた当時の活動家の姿を「理解不能」だと正直に語った。そして残されたのが当事者である活動家たちの目線による「総括」だった。
しかし、本作で執拗に描かれるように「総括」をするということは自己否定を伴う行うことだ。既に「転向」し地位と名誉を得た彼等にそれが出来得るはずもない。そんな状況で若松監督が取り上げた事自体が奇跡だし、敬服に値するのだ。怖いもの知らずなだけかも知れないが、他の誰にでも出来る芸当じゃぁない。しかも直視してる。
そして想像で書き足したであろうフィクション部と証言から構成されたであろう部分との微妙なバランス感の中で、現代の平常感を伴う観客が唯一感情を委託出来る存在として遠山美枝子という女性を選び、なおかつ彼女が亡き後には加藤家の末弟を演出した。この構成がベストだったとは思わないが、一般映画足らんとするには良いポジションをとったのではないかと愚考する。
190分という長尺はその長さを感じさせないほどの圧巻であった。不謹慎ではあるが面白かった。密室の集団が狂気に犯されていく様は映画的に面白かったのだ。アノ事件を耳にした国民は皆、何故貴重な同志を自らの手で減じていかねばならないのかが最も理解に苦しみ、なおかつ興味ある点だったはずである。今風に言えばそれはその場を支配した「空気」なのだろう。そして本作の肝もその「空気」を如何に描き出せるかにかかっていた。
それはかなりの精度で成功したのではなかろうか。彼等のやっていたことが「青白っろい革命ごっこ」だったこと。そしてその底流にあるのが実は学生らしい(子供っぽい)といえば当たり前の恋愛だったり嫉妬心だったりライバル心だったり・・・難解な革命の念仏の裏にあったあまりにも人間的な日常的なきっかけがアノ「空気」を醸成していった。これこそ「恐怖」。
だって、我々はその「空気」を常に知っている。学校の教室や会社の会議室で日常行われているイジメや吊るし上げの「空気」を知っているから・・・
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