[コメント] 大決戦!超ウルトラ8兄弟(2008/日)
小学生のころ、通っていたスイミングスクールで1人の特撮好きと出会った。
初めて2人で見に行った映画は『ガメラ 大怪獣空中決戦』。以後、私が大学進学で地元を離れるまで、特撮映画が公開される度に街の映画館まで2人で見に行った。
彼は手先がとても器用で、小さいころからプラモデルやジオラマを作っては、私に見せてくれていた。将来は私が本編の監督、彼が特技監督でゴジラを撮ろうって、そんな夢みたいなことをよく言っていた。
私は普通の高校に入り、映画とはおよそ無縁の大学に進学し、今は全く関係のない仕事をしている。しかし彼は美術科のある高校に進学し、大学にはいかず、東京の特撮の専門学校に行った。
専門学校を出てからは、ミニチュア製作の仕事についたらしい。ときどき連絡をとっては、ゴジラに壊される国会議事堂をつくったんだとか、NHKのニュース番組で使われた松坂大輔選手のミニチュアをつくったんだとか、話を聞かされていた。
この映画、横浜で怪獣が暴れるシーンがある。その中に、赤レンガ倉庫前のカフェテラスを俯瞰で撮るカットがあった。そのカットに怪獣は映らないから、ただの空撮を使えばいいはずなのに、何故かミニチュアを用いたカットだった。わざわざミニチュアのカットをはさむくらいなら、編集上切り落としても全く問題ないシーンであるように思える。では何故、そんなカットをはさむ必要があるのだろうか。
今、円谷の時代から受け継がれてきた日本の伝統的特撮は斜陽の時代だ。CGに押され、存在価値すら問われている。
しかしね、子供のころから特撮に夢を持って追い続けた人々がいるんだ。ミニチュアにはミニチュアの良さがあると信じ、着ぐるみ特撮に、愛と誇りを持って仕事をしている。あのミニチュアのカットは、子供達を怪獣のいる世界に自然に引き込むために絶対必要なカットだと私は思う。いわば現実の世界と架空の世界の架け橋のようなカットだ。日本の特撮現場が蓄積してきた技術を感じた。
映画が終わり、スタッフロールを眺めていると、「美術助手」の欄に、彼の名前があった。それを見た瞬間、涙でスクリーンが見えなくなった。
久々に彼にメールをしてみた。「横浜のセット良かったよ」って。そしたら「ありがとう。赤レンガ倉庫の足元のテーブルと椅子を並べたよ」と返ってきた。笑顔でミニチュアを作っている、小学生のころの彼が目に浮かんだ。
夢を追いかける人々が、子供に夢を与えている。日本特撮、まだまだ現役です。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (7 人) | [*] [*] [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。