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[コメント] ウルトラミラクルラブストーリー(2009/日)

間違ってはいないが、人とは違った脳ミソを持った男は、人為的害毒に身をさらすことで「普通」を得る。これは、我々が「普通」だと思い込んでいる状況こそが、自尊、依存、懐疑、嫉妬、裏切りといったノイズにまみれているではないかという強かな挑発でもある。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ガンジス河で水葬にふされた遺体を喰いちぎる野犬の写真に、「人は犬に喰われるほど自由だ」と一文を添えたのは写真家の藤原新也だった。本作の強烈なラストを観ながら思い出していた。脳ミソを獣に喰らわせてしまう以外、我々は、自由どころか再生すらできないのだと横浜聡子はいっているのだ。

誤解を恐れずに書けば、やはり津軽は異界であった。あのラジカセから流れる死んだ祖父さんの津軽弁は、まさに霊界からの呪文である。死人の呪文をたよりに、新しい生命である農作物を育てることを試みる、脳ミソのなかに異界をもった青年。この作品には、こんな禍々しさと純粋さが散りばめられている。

たがが、町子(麻生久美子)という女の失恋からの再生物語に、あるいは陽人(松山ケンイチ)の純愛物語りに、奔放に仕込まれた横浜聡子の挑発的な毒を劇中の農薬のように、ひ弱な我々はしこたま浴びせられたのだ。本作が、横浜聡子のオリジナル脚本と演出であることが何よりも頼もしい。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)緑雨[*] chokobo[*] 蒼井ゆう21[*] ペペロンチーノ[*] 水那岐[*] セント[*] けにろん[*]

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