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[コメント] しんぼる(2009/日)

世界は常に偶然に支配されており、実は人々はその気まぐれな結果に左右されているだけなのだという、不確かさについて語りたかったのかもしれない。そんな生真面目な理屈が映画として消化されることなく、まさに青臭い素人作品の典型として透けて見える。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







私は、お笑いタレントとしての松本人志について、まったくと言ってよいほど何も知らないので、その見地から松本監督の映画についての感想を抱くことはない。この「しんぼる」を観てみる気になったのも、デビュー作の『大日本人』での、松本監督の「生真面目で無邪気な表現欲」の奔放さにただただ感心させられたからだ。

ところが本作は、奔放さなど皆無で実に理屈っぽい。確かに、冒頭からのメキシコと密室のパラレルワールドは、村上春樹的な奇想を彷彿とさせワクワクした。古典的な道化の域を出ない密室でのギャグは期待以上の爆発はみせないものの、メキシコでのレスラー物語の荒削りな躍動感は(どの程度、松本のディレクションが反映されているのかは定かではないが)ただならぬ吸引力を持っていた。

しかし、そのパラレルワールドが交錯し、延々と繰り返されたギャグに意味(すなわち理屈)が付加されたとたん、パラレルのパラレルたる奇想は、ただの退屈な辻褄あわせのための道具に矮小化されてしまった。その後の、実践篇から未来へと向かう、ありきたりのコラージュと上昇はさらに説明的で退屈だ。骨組みとして映画を支えるはずだった「平行」や「上昇」といった構造物が、すべてただの言い訳のための道具に成り下がる。

これは、ひとえに理屈を消化しきれなかった未熟さの表れだと思う。もしも、これが確信的な所行の結果であったならば、それはそれで、映画へのまぎれもない冒涜であり「1点」を付けて断罪しなければならなかっただろう。松本人志は、まだそこまで映画に自覚的になっていないように感じた。

(評価:★2)

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