[コメント] イングロリアス・バスターズ(2009/米=独)
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「これは夢じゃ、夢でござる!!」
萬屋錦之介よろしく、いつクリストフ・ヴァルツがこの言葉を絶叫し、天を仰ぐかを楽しみにしていたのだが、そんなシーンは全くなかった。
歴史を好き勝手に弄るのは全く自由である。この作品はマカロニウェスタンなどのオマージュを露わにしているように謳われるが、実際のところ『柳生一族の陰謀』『魔界転生』といった作品への讃歌が自分には耳についてならなかったのだが(メラニー・ロランと愛情の果てに殺しあうダニエル・ブリュールには、志穂美悦子と萩原流行の愛憎が描かれた『里見八犬伝』の匂いが濃厚に纏わりつく。特に彼らの流血に身を捩りながら台詞を搾り出すシーン)、それらは観客に対する仁義のような描写を不安感をもって与えられていたにもかかわらず、この作品はそのあたりを丸投げしている。ヒトラーをはじめナチ首脳陣をあっさりと全滅させておきながら、生き残るのは最初から感情移入を廃されているブラッド・ピットとヴァルツばかりだ。ユダヤ人や黒人への擦り寄りも結構だが、こうまで面白くないスラップスティックに堕してしまうと単なる被差別民族へのご追従にしか見えなくなってしまう。あるいは、自己満足。
怨念や怒りのパッションに突き上げられての作品なら、それなりの評価もできよう。しかし判っていることは、タランティーノは子供じみた興の乗る素材でキメラ的作品を作ることしかできない監督であり、その作品はいまやお遊びの域を出ないということだ。「面白ければ何をやってもよい」それは映画の真実だ。だが、あくまで「面白い」ことが前提だ。メラニー・ロランやクリストフ・ヴァルツを核にしていれば、その線もあったかもしれない。しかし余計な設定を盛りだくさん過ぎるほどに盛り上げたために、今までの台詞主導の展開が逆に働き、サスペンスに水を差されてしまった。これでは面白がりようがない。
言ってしまえば、タランティーノ作品というのは単なるスタイルの映画であることが如実に現われた作品といえるだろう。神秘のヴェールの下には、マジックも何もないお遊びだけしか隠されていなかったということだ。この次もこの程度の作品しかとれないなら、彼に期待を寄せるのはやめておこうと一人考えた。
メラニー・ロランに一点加点。
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