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[コメント] 母なる証明(2009/韓国)

子を案ずる母に野良猫ロックを。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







平日の朝の劇場、おそらくウォンビン目当てだろうたくさんのおばさんたちに囲まれての鑑賞だったが、カップルや若い女性同士の終劇後の会話であったらありそうな「これってアリ?」的なとまどいのようなものはおばさんたちからは全く感じなかった。彼女たちには何ら変わった話でもないってことなのかとちょっと怖かった。

弁護士から四年の病院送りを提案されるパブでの愚弄のされ方、証拠のゴルフクラブのヘッドが雨で濡れないようにポリの手袋を被せてしまう結果としての滑稽さなどを通じて、町の人々から嘲られる息子とそれを守ろうとする母親の愚かしさを表現する監督の描写がうまい。相手がなんであれ子供を守ろうとし、近づいてくる人間を物凄い形相で威嚇する野良猫の母親を見るようだ。この物語の母の行動はそういう原初的な行動だと思うとすんなり納得がいく。

が、すべてが狂った母性のゆえんであるかのようには描かなかった監督は冷静さを失っていないと思う。そういうふうに生んでしまったこと、5歳の時に殺そうとしたこと、そういうことに対する贖罪の意識が彼女にはある。息子の殺人を警察に証言しようとしたゴミ収集人をとっさに殺したあと、彼女は思わず「おかあさんどうしよう」と息子へ救いを求める。しかしすぐに息子は頼るべき相手ではなく、自分が守り貫いていく相手であると思い直すのだ。逃げてしまえばどんなに安らかか、だがそんなことをしたら息子はこれからどうなってしまうのか? 自首や自殺をしてしまいたいという気持ちを上回ってすべてを飲み込むのだ。だから、シャツについた被害者の血は鼻血だという証言はたぶん事実だろうと知ったうえで、「真犯人」に母親のいないことを確認し罪を被ってもらうのだ。狂ったのではない。理性を飲み込んだのだ。

ほとんどの場合、母親はわかっていないんでも無意識なんでもない。みんなわかっていて自分を仕舞いこんでいるのだ。人がよく「本能」と見間違えているそれが母性の本質だ。母性のそういうところが怖いのだ。

人間や社会の道徳や常識と戦ってでも譲れない生き方があって、それを貫く生き様をロックというならこの母親の生き方こそそれだ。ほかに彼女のような生き方についてうまく説明のしようがない。いやなことや心配なことを心から消してしまうツボに自ら針をうちあの世の果てまで黙しようとする姿、冒頭とラストのダンスはまさに母ちゃんのロックだった。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)きわ ミドリ公園 Master[*] シーチキン[*] ぽんしゅう[*] けにろん[*]

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