[コメント] アンストッパブル(2010/米)
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近年のトニスコに外れなし!人物が刻む労働のドラマが前置き抜きで立ち上がる。職場の人間関係、主役の背景描写もパーフェクト。飯場から操車場、司令塔、事故の発端と、観客の先読みを許さないスピーディーな掴みもよい。
デンゼル・ワシントン、クリス・パインそれぞれの私生活の描写も過不足ないし、ロザリオ・ドーソンの管理下で不意に出てくる溶接主任、リュー・テンプルも含めた周辺人物の彩りがまたうまい。日本上陸したばかりのフーターズの話題で一気に親近感が増すくだりもよかった。
手数の多いアクションシーンの充実は、777号の造形に因るところが大きい。貨車の威圧感は速度よりもむしろ質量なのだ。丹念に設計されたビジュアルイメージは、それだけで有機的な存在感を発生させる。ケヴィン・ダン(『トランスフォーマー』のお父ちゃん)の管理職も簡潔で、テレビ報道を巧みに使った社会描写もきっちり押さえている。
欲を言えば、777を追いかける途中でのワシントンとパインの会話がいささか説明的に思えた。ドーソンの無線を割り込ませたりと工夫はしているが、もう一つまみアドレナリンを効かせてもよかったのではないか。
スタントン大曲はちょっとCG臭がしたが、そこで終わらない展開もいい。悲鳴を上げる1206からも莫大なエネルギーを感じたし、併走する車両間での飛び乗り飛び降りがいかに恐ろしいものであるかを体感させる演出も凄い。ヘリコプターのスタント飛行も驚異的だ。
見終わってから気づいたのだが、1206号が777号を追いかけるくだりで、その進行が全速後退だというのは意味深い。これがイケイケの全速前進であればまたニュアンスが変わってくる。
思えばワシントンは、運転席から後ろを見るという動作で彼のキャリアを表現していた。携帯通話中のパインも、余分に繋いだ貨車も、777最後尾の連結器も、彼は後ろを見ることで確認しているのだ。それは人生を振り返ることに通じる。これまでの生き方が間違ってはいなかったことを、彼は1206号を全速後退させることで証明するのである。そして若い世代のパインは、順方向に疾走して777号を停める。
無為の事柄からドラマを見出そうとするのが人間心理である。本作に織り込まれた世代交代のドラマは、事実からヒントを得たリアリズムの不思議さを感じさせる。
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