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[コメント] トゥルー・グリット(2010/米)

きまじめ過ぎる正義を貫き通す少女(ヘイリー・スタインフェルド)の想いに、異論をはさむ者は少ないだろう。しかし、ときに意地にまみれた正論は、行為者の想像を超えた過剰を生むものだ。追跡の果てに少女が得た結末は、はたして彼女に満足をもたらしたのか。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







少女マティ(ヘイリー・スタインフェルド)が追跡の末に見たものは、血を流しあいながら情け容赦なく遂行される正義のための復讐という名の暴力。そして、意地と正論を頼りにチェイニー(ジョシュ・ブローリン)に向けて発射した弾丸と引きえに、あるいはこの成長譚というにはあまりにも過酷な冒険の末に、14歳の彼女はいったい何を得たのだろう。失くしたものは、はっきりしている。左の腕だ。

エピローグに登場する、片腕の中年独身女の顔に、喜怒哀楽といった感情は浮かばない。その表情は、意地と正論を貫いた末の結果の虚しさと、左腕とともに失くしてしまったいくつかの幸福に、それでも彼女特有の意地と正論で耐え続ける苦渋の裏返しとしての無表情なのだろう。いたましく、悲しい女だ。

この女の無表情に、たとえば、同じように意地と正論を貫き、テロの首謀者をアフガニスタンの荒野にまで赴き追跡し、いまだに捕らえられない虚しさや、はたまた砂漠の果てまで見えざる大量破壊兵器の影を追い求め、ついにはイラクという国家をひとつ破壊して、引くに引けなくなったあの正義の大国アメリカのプライドと苦渋を重ねるのは、いささかうがち過ぎだろうか。

コーエン兄弟らしからぬ、あまりに正当的なアプローチで、彼ららしいそんな毒が薄まってしまった感があり、いささかもの足りなかったのが心残りの佳作。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)irodori jollyjoker DSCH ぱーこ[*] けにろん[*] セント[*]

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