コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] そして父になる(2013/日)

車中での暗転する母子像が印象的。尾野真千子は相変わらず巧い。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ささくれ立った世界で善意と優しさの関係を手探りで広げてゆく是枝ワールド。本作はリアルな設定のなか、家族の垣根を越えようとする姿勢がとてもいいと思う。

しかし、どうも釈然としないのは福山雅治の野々宮家が断罪されリリー・フランキーの斉木家が理想化されるスタンス。戦後の日本映画は、家庭では無能なエリートを飽くことなく描き続けてきた訳だが、そこには高度経済成長を背景とした企業倫理の暴走をくいとめるという明確な意図があった。本作もこの構図が踏襲されているのだが、この不況下、何か空回りしているように感じる。斉木家の電気屋家業で果たして飯が喰えるのだろうかと、そっちの方が心配になる。

本作は取り替えっ子の物語のバリエーションだが、例えば有名な「王子と乞食」は、宮廷と貧民街の両方に批判の目が向けられたからこそ、同時代の優れた批評になったのだった。本作にそのような複眼的な視点はなく、「乞食」の絵に描いたような理想化がある訳だが、これは現代において然るべき強度を持っているのだろうか。ある、と作者は云っている。あってほしいと私も思うが、そこの処、本作は説得力が欠けていたのではないだろうか。

本作はかのリゾート地で賞を取ったのだが、あのエコノミック・アニマルがついに企業戦士を批判しはじめたぞ、ってのがかの地での好評に繋がったようにも見える。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (5 人)おーい粗茶[*] jollyjoker[*] G31[*] けにろん[*] 緑雨[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。