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[コメント] セッション(2014/米)

まさしく師弟が憎悪をむき出しに潰しあう、梶原一騎イズムの継承。これを狂気のぶつけ合いと片づけるのは全くもってつまらない。五感を駆使しての暴力の応酬が、なぜかカタルシスを生む結果に昇華されるラストは、スポ根のあやふやな効果をはるかに凌駕する稀有な体験。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







主人公がはからずも師との私怨のぶつけ合いにより、自らの能力で勝利を勝ち取る大団円と見るむきも世間にはあるようだが、他方では一見ハラスメント男と見えるJ・K・シモンズの手の中の猿として、計算通り見事にマイルズ・テラーが開花したとする見かたもできるのがこの映画の妙味だ。それではカタルシスが霧消してしまいそうだが、そうは終わることではない。糞まみれの現実からも立派に成功が形作られ得る。これがセッションだ。人生最悪の組み合わせからも名演は成り立つ。ゆえにもちろん、この映画は体罰推奨映画ではない。だが、話し合いを役立つものとする映画でもないのだ。だからまるで天の采配によるかのごときラストまで、観客は眼を背けることができないのだ。

こういう複層的な「スポ根」というのは、決して狂気という便利なことばで言い換えられるものではない。師匠は弟子という珠を磨くために、敢えて弟子を逆境に追いやったり、当て馬としてのもうひとりの弟子を育てて立ち向かわせたりする。このはたから見て信じられない師匠心理が主人公にぶつけられるのが梶原イズムなのである。そして主人公も、恋人をみずから放棄し、振り返ることもしないほどに師匠との関係に没入している。楽しかるべきスポーツや音楽に命を賭け、人生を棒にふっても極めるべき世界に「貶める」、スポーツや音楽を楽しむ人々に「異端」と忌み嫌われる作品群の継承ともとれるのが本作のヤバさということだ。

それゆえ、グルーヴ感もなければスウィングもしない、この作品はエセジャズ映画だとの見方もある。だが、もとよりこの映画は監督の私怨解消映画であって、それを妨げるハッピーなジャズ人間がスタッフにいなかったことは却って好都合ということであろう。ましてこれはジャズに留まることなき「普遍的なトラウマ映画」なのだから、すべては操舵手である監督に委ねられていることは承知すべきだ。そして、そこから突き抜けた世界を見せる舞台であることも。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)シーチキン[*] 狸の尻尾[*] けにろん[*] ざいあす MSRkb jollyjoker[*] 緑雨[*]

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