[コメント] ヘイトフル・エイト(2015/米)
実にヘイトフル。歴史に沈潜した憎悪に作用され、疑心と殺意が濃縮されゆく会話劇の「言葉の暴力」が、行くとこまで行った感があって凄まじい。白も黒も、嘘と赤い血に沈む上でしか和音を奏でることはしないという、ピアノの鍵盤と不協和音混じりの「聖しこの夜」が示唆する恐るべき「アメリカ的」帰結。文学的な前のめり感がかなり強いが、相応の旨みと凄みが出た。にしてもタラ先生の最近の荒ぶり方は一体何なのだろう。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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今回の血はドロドロベトベトしている。まとわりつくような粘着性がある。歴史に塗りたくられ、こびりついて離れない憎悪を表現しているのだろうか。
今回、タラ先生が文学の照れ隠しで撮ってたのは喀血シーンくらいに思った、のだが、これも過剰感が過剰なので、結構映画的に、というよりも文学的に本気なのではないかと。他にも、オズワルド役がクリストフ・ヴァルツでなくティム・ロスであることが、例えば『ファーゴ』において、コーエンがジョン・タトゥーロではなくピーター・ストーメアを配置したことを思い起こさせる。ここには諧謔や笑いはないよ、という意思表明。キリストのモチーフの導入もこれまでの先生にはなかった文学的いやらしさ(多くが失敗しやすいこれを成立させるところがまたいやらしい)。一体どうしたのだろう。
これほど後味が悪かったのも例がなく、これはこれで完成しているのだが、やや今後が心配になった。もうちょっと楽に撮ってよ、先生。
(モリコーネ師はテーマ性を完璧に聖しこの夜で提示しており、戴冠宜なるかなという感じでした。撮影のリチャードソン先生はちょっと不調だった印象。サミュエルさんは相変わらずブラボー。サスペンス面では、もっとお互い殺したいんだけど殺せない、竦み合いを突き詰めて欲しかったですね。)
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