[コメント] 幼な子われらに生まれ(2017/日)
ディジタル・ライト・プロセシング映写であることは重々承知しているものの、粒子の粗いフィルム撮影の画面は今や滅多なく、やはり抗しがたく瞳を惹かれる(大塚亮が一六ミリで撮ったらしい)。IMAXや4DXも結構だが、これも「映画」ならではの、テレビドラマやウェブ動画には許されないルックだ。
外していれば失礼きわまりない推測だが、三島有紀子は画面造型についてほとんど口を出していないのではないか。長篇第二作以降、遠慮なく次々に映画的ルックを志向する撮影者と手を組み、画作りは彼らに委ねて自らはアクティング・ディレクションに専念している、ように窺える。いずれにせよ佳い映画が出来上がるのなら結果オーライではある。
全篇にわたって不穏な緊張感を律義に維持できたのは、浅野忠信個人の資質・経歴に拠るところも大きいだろう。私たちは『Helpless』や『淵に立つ』を忘れたまま浅野の映画を見ることはできないのだ(しかし、改めて詳しく振り返ってみると、彼がむやみに暴力を振るったり人を殺めたりする役柄の映画は存外に少ない)。
「斜行エレベータ」や、「遊園地」の反復変奏(冒頭と、百貨店の屋上遊園地)、浅野の左遷先の無機質な「倉庫」など、「日常を描く邦画」の域を踏み外さない範囲で選り抜かれたロケーション群も、厭らしさ寸前の作為がよく機能している。その印象的な舞台ぶりにかけて、とりわけ斜行エレベータはもっと他の映画で見かけてもいい。同様に「夜の土砂降り」で物語を加速展開させる作劇性も好もしい。
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