コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 日本のいちばん長い日(1967/日)

アヴァン・タイトルでのナレーションと人名タイトルの連発は決してスマートなやり方とは云えないが、それを差し引いてもこれだけの群像劇をさばききってしまう岡本喜八の統制力は率直に称賛されるべきだ。見事なカットバックが随所にある。
3819695

また、意欲的な照明設計はそれだけでも一見の価値があるだろう。もっとも、意欲的すぎるがゆえに却って照明の効果が減じてしまっているように思えるショットもいくつかある。

俳優の中では(多少ひいき目が入っているかもしれないけれど)笠智衆が最も輝いていたのではないかと思う。私は笠がいわゆる大根役者だったとはまったく思わない。確かに演じた役柄の幅はそう広くはなかっただろうし、ここでの笠も声の発し方に関して云えば「はは、またいつもの笠さんだなあ」と思わなくもない。しかし、笠は広くはない役柄を実に多様なニュアンスを込めて演じることができた俳優なのだ。笠が常に顔面の微細な筋肉を繊細に運動させて演技していることは、本作での顔のクロースアップを見つめれば分かるはずだ。

ところで『日本のいちばん長い日』という題のこの映画は、しかし上映時間としてはたかだか一五七分間程度を持つに過ぎない。もちろんそれは映画の平均的な上映時間と比べればずいぶん長いに違いないのだが、一九四五年八月十四日から十五日にかけて起こった出来事を適当に取捨選択して一五七分に収めればそれで「日本のいちばん長い日」が表現できる、といったものではまったくない。にもかかわらず『日本のいちばん長い日』という題が説得的に観客に提示されているのは、監督が一貫して「息苦しさ」を演出してみせたからだろう。その演出は主に前述の照明と、疲労感を色濃く滲ませた顔面や血管の浮き出んばかりに気張った顔面をクロースアップで捉えることによって達成されている。息を止めている時間は実際よりも長く感じる。岡本は「息苦しさ」によって見事に時間的な「長さ」を表現してみせたのだ(しかし真に優れているのは、劇中時間としての一日間の「長さ」を表現していながらも、観客に上映時間の「長さ」を感じさせない=退屈させない、というところであり、それは冒頭でも述べた監督の統制力の賜物だ)。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (6 人)煽尼采 Myurakz[*] ゑぎ ヒエロ[*] 荒馬大介[*] けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。