[コメント] 男はつらいよ(1969/日)
江戸川の土手、葛飾柴又帝釈天、高級ホテル、奈良の都、天橋立、それと明示しなくても、スクリーンに出てくる風景を見れば、なぜかそれがどういう所だかわかる。このカメラ構図のうまさは、よくよく考えるとすごい。
1969年製作だから渥美清はもちろんのこと、笠智衆と志村喬の競演をはじめ、登場人物がみんな若くてびっくりだが、その中でも倍賞千恵子の可憐な美しさは感動的というか、心洗われるような魅力があり、誰もがあんな妹から「お兄ちゃん」と呼ばれてみたいと思うだろうというほどの輝きがあった。
内容の方は、シリーズ一作目だけあって、後のシリーズに現われてくるパターンのほぼすべてが出そろっているのだが、なんといっても東京駅だか上野駅だかの地下の食堂で、追いかけてきた舎弟を、故郷へ帰れと諭す寅さんが出色。
それまでは、お調子者ではあってもけして自分を卑下しなかった寅さんが初めて、「おれみたいな馬鹿になってどうするんだ」と話す場面は、生きていることの切なさ、つらさ、苦しさが凝縮されながら、それでいて人生は捨てたもんじゃないと思わせる、まさに寅さんから直接に、がんばってしっかり生きていけと励まされているかのようなシーンだった。
また、寅さんがマドンナの御前様の娘と遊びに行った帰り、光本幸子が寺の門の中から腕を伸ばして握手するシーンがあったが、あれを見て思わず山田洋次監督が、渥美清没後に撮った『虹をつかむ男』でも西田敏行がヒロインの田中裕子との別れで同じようなシーンがあったのを思い出して、「ほほー、やはりなあ」と感心するやら、山田監督のこだわりを感じるやらで、印象的な1シーンだった。
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