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[コメント] 男はつらいよ 寅次郎夢枕(1972/日)

この作品も,例によってラストは笑いのうちに終わるのだが,実はとても悲しい…。
ワトニイ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この作品で,寅さんは,何とマドンナ・お千代坊(八千草薫)から逆に告白されてしまうのだ!

この点はtakud-osakaさんもコメントで触れているが,その時の寅さんは,見方によっては気弱で情けないとも取れるし,あるいは,フーテンの我が身を考えた上で真にお千代坊のことを思いやっての優しさの表れとも取れる。さらには,一見お千代坊の身になって考えているようで,実は度胸の無さに起因する一人よがりの逃げとも取れる(本当に彼女の幸せを考えるなら,いくら甲斐性のない自分でも,結婚することが一番ではないか?)。

私はこの作品を何度か観たが,そのときの自分の心の状態によって,寅さんに対する思いも変わってくることに気付かされる。その意味で,この作品の寅さんは,観る者自身を映す鏡のようなものかもしれない。でも,ここはあえて素直に,寅さんの優しさを賞賛したい。

それにしても悲しいのは,ラストシーン。寅さんを除く とら屋の面々を前にして,お千代坊が「私は本当は,寅さんとだったら結婚しても良かった」と告白するのだが,みんな冗談としか受け取らないのである。あまりに真剣なお千代坊の態度に,一同,一瞬「もしや…?」という雰囲気になりかけるのだが,そんな雰囲気も,いつもながら繊細さを欠くタコ社長(太宰久雄)の一言で一挙に吹き飛んで,爆笑の渦になってしまうのだ。この一見明るい談笑のラストシーン,懸命に自分の想いを告白するお千代坊が何とも健気で切なく,ジーンとなってしまう。

このシリーズのラストは,いつも とら屋の家族が楽しそうに談笑する場面と再び旅に出た寅さんの表情とが対比されて終わるが,本作の切ないラストは,シリーズ中屈指の名シーンだと思う。

(評価:★5)

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