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[コメント] 緑の光線(1986/仏)

ささやかな、希望の光。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







生々しいものを必要以上に退けたり、自分と相容れないことを他人が言うと絶対妥協しようとしなかったり、他人の目に自分がカッコ悪く写るコトを極度に恐れたり、とてもそうは見えないのに協調性と寛容気取ったり、そんなことで気い使ってるうちに落ち着けなくなって周りの人間が疎ましくなって逃げ出したり、でも一人ぽっちになると寂しくなったり、何で人の輪に加われないのかと悲しくなったり、そしておとぎ話のようなロマンスをひたすら待ちつづける植物的な女の子。見ているこっちがイライラしたり、「そんなことで大丈夫なのかよぉ」と心配になってしまう。そんなしょーもない子です。

でもロメール氏は、そんな彼女を逃げっぱなしになんてさせません。いろいろなタイプの人間、そしてそんな人たちのさまざまな言い分を通して、彼女にたくさん試練を与えます。彼女はあんまりにも自分が他と違う事をイヤというほど思い知り、変わらなきゃいけないと奮闘しつつも、どうしても変われない部分もあったりして、しまいには途方に暮れて泣き出すまで追いつめられます。そんな彼女を見て、彼女自身には共感はわかなくても、できる限りで変わろうとしている姿にある種の共感を覚えたりするでしょう。そしてどうしても譲れない部分が、彼女にとってどれだけ切実であるのかを配慮してあげたくもなります。そこまでロメール氏は彼女をハダカにするのです。果たして彼女に救いはあるのでしょうか?

そんな希望が消えかかっている頃、絶妙なタイミングで現れる王子さま。彼がまた彼女に相応しい寡黙で思慮深い人。しかも出会い頭になんで彼女が彼を受け入れたかも、ちょっとした描写で全て理由づけてます。今までの男たちが彼女の外見を見てロコツにアプローチしたのに対して、彼は彼女の読んでる本にまず興味を持ち、そこから彼女に興味を移した、そう、あの描写です。外見よりも中身に興味を持つ人物を連想させます。そしてホンモノの出会いを予感させる緑の光線、ついに見ることができました。さんざん努力させた揚句に手を差し伸べるロメール氏。そしてどんな子でも切実な思いがあれば幸せな結末は残されている、というささやかな希望を感じさせて映画を締めくくる氏の優しさを感じずにはいられません。

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とにかくロメール氏は何気ない話の見せ方がウマイ。あまりにウマイのでそう思う理由を書いておきます。

・さりげないコトバでその人物がどんな人間なのかを鮮明にするのがウマイ。チョイ役で出てきたりする人でも、言葉の選び方のウマさで、不思議と後々まで印象に残ってたりすることがままあります(この映画の場合、海辺で「緑の光線」の話をしていた老人たちとか)。

・人物の配置の仕方がウマイ。この人にはこんな性格の人と話をさせるときっと会話にピリっと化学反応が起こる、みたいなのが計算づくとしか思えません。

・その人物の一挙一投足にウソ臭いものがまず無い。常に性格に基づいた行動や、反応の仕方を考えて描いているので、安心して見てられます。

・用意された描写や事件には、ほとんどがそれを物語に持ち込む理由がある。何気ない食事のシーンを見てても、それは如実です。

・そしてそんな会話劇を何気なく見せているようで、全体を通すとちゃんと物語の起承転結がキッチリ入っていたりする。そこがメリハリになって、見ているコチラとしても最後まで興味が持続するんですネ。

とにかくそんな氏の美点が、この映画ではほとんどカンペキな域に達している気がします。どんなにちっぽけなエピソードであっても、どんなに感情移入の難しい人間が主人公になってても、これらのことさえ押さえてれば見るべき物語に成り得る、まさにロメール・マジックです。

(評価:★5)

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