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[コメント] グラン・ブルー(1988/仏)

かの有名なベッソンの初期の傑作と誉れ高い映画を初めて見る。最近の彼の、流したような作品群に見飽きた僕はこの作品の「青春の鎮魂歌」に驚き、その若き遠吠えのするような灼熱の熱き想いに息をのむ。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







子供時代の父との哀切な別れ。そして成長するも仕草がまるでイルカのような少年そのもののジャック。無理に微笑んでいるような表情はイルカそのものだ。考えたらジャックは人間として描かれていない。父親を助けに来なかった人魚を常に意識しているようだ。彼は人間ではない。

そんな彼も恋をする。性愛に目覚めた人間。でも、どこか性の瞬間でも海を感じている。彼の生きている場所は海の中なのである。

ゆったりとしたタッチ。伸びやかなブルーの海。人間の回顧を辿る本源的な海。人類は海から生まれた。まさに、グランブルーの世界。雄大だ。頬にかかる波と潮のにおい。画面から海のしぶきがかかりそうだ。

ベッソン、ひょっとしたらロベール・アンリコの『冒険者たち』を意識したのでは、と思われるシーンが多い。まず主演のロザンナ・アークェットジョアンナ・シムカスに酷似している。ただ女1・男2のいわゆる恋愛定番を回避し、別の女を無理に組み合わせ男2・女2にし、その色を極力消している。

しかし、強引なジャン・レノの水葬シーンはやはり『冒険者たち』のレティシアを思い浮かべさせ、まさにこの映画のテーマ「青春の鎮魂歌」である。

しかしこの映画には青春の答えである友情や宝物捜しは出て来ない。とにかく海しか出て来ない。そう、この映画には人間を拒否している匂いがある。ジャックはまさにイルカである。ジョアンナが妊娠を最初告げようとした時も、イルカに戻って告白を聞かなかったように海に潜る。彼はもはや人間ではいられなくなっている。

だから、友人エンゾを海で亡くして水葬した後は、自分に子供ができようが、もはや地上での生活に生きる意味を見いだせなくなくなっている。人間ではいられなくなっているから苦しいのだ。ましてやジョアンナから二度目の妊娠の告知をされてももはや人間の生活には戻れないことを彼は知っている。彼は海の中で生きるしかなくなっている。そしてイルカに手を差しのべて彼は海の中を永遠に生き続けるのだ。

グランブルー。人類の発生したまさに根源的な場所。不思議な感覚のする、ベッソンのまさに青春映画の墓碑銘である。秀作。

(評価:★5)

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