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[コメント] エクソシスト(1973/米)

メリン神父が家の前に立つ。それだけで完璧な絵になってる!
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本作は私にとってはかなり思い出深い作品で、レンタルでビデオを借り、LDを買い、完全版の公開時は劇場まで観に行った。かなり好きな作品だ。

 ホラー映画というと、当然だが、“怖さ”というのが第一に来るわけだが、本作を観て感じるのはむしろ“哀しさ”という点に特徴があるのではないかと思う。悪霊に娘が取り憑かれてしまい、全てを投げ打って娘を助けようとするバースティン演じるクリス。母の死に責任を感じ、神父でありつつもキリスト教に疑問を呈し、常に内に重みを抱えつつも必死に少女を助けようとするカラス神父。その対比が実に素晴らしい。ホラー映画として怖さを追求するのみならず、ドラマとしてもしっかり見応えのある作品を作ってくれた。

 怖さの演出も良く、悪霊に取り憑かれても最初は普通の少女だったリーガンが、進行が進むに連れて怖く変質してしまう描写(悪夢のようなあの声の演技!)。光と闇の対比を描写する映像的技術。そして極端に温度が低下した部屋の中での神父と悪霊の息詰まる対決風景。本当に見事な描写だった。更にこれが完全版になるとスパイダー・ウォークは見せてくれるわ、暗闇の中に悪霊の顔が浮かぶわのサービスが追加され、描写の巧さも際だっていた。

 それまでホラーと言えば、低予算で安っぽくしか作られてなかったの(決して嫌いじゃないけど)を一気にメジャーに押し上げた功績も買うべきだろう(制作費で1,000万ドルを用い、ビッグ・バジェット・ホラー(金のかかったホラー)と呼ばれた)。アカデミー各賞ノミネートの数を見ても、その功績が分かろうというもの。

 キリスト教の話にメソポタミアの悪神パズス(本作ですっかり有名になったパズスだが、実はこれは悪神であると同時に守り神でもあったりする)が登場する理由がないと言う致命的な点はあるにせよ、映画としての完成度は非常に高い。

 ところで本作は、本編だけでなく、それに付随する様々な話題に事欠かなかった事でも有名である。

 制作費は当初300万ドルの予定だったが、現場では5ヶ月もかけて作ったセットが原因不明の火事で焼け落ちたり、小道具が消えたり、劇中死んでしまう映画監督が、撮影直後に本当に死んでしまったりと、呪いがかかったかのような事故が続き、結果的に撮影に2年を要する事になり、制作費は一気に3倍に跳ね上がった(興行成績で軽くペイできたそうだが)。

 それと、興行成績に満足した製作会社のワーナーは本作にオスカーを取らせるべく会社を挙げて大々的なキャンペーンを張り、「露骨に金の力でアカデミーを取らせようとしている」との悪評も受けた。特にリンダ=ブレアに対する助演賞への執念は凄まじく、見事ノミネートまで持っていく事に成功したのだが、彼女の演技で最も評価を受けた「声の演技」が実は吹き替えであった事が発覚し(あの声を当てたのは、俳優のみならずラジオのパーソナリティとしても有名なマーセデス=マッケンブリッジだったのだが、彼女の名前はクレジットされておらず、それに怒ったマッケンブリッジが全部事実をぶちまけてしまった)、それでアカデミーの評価は一気に落ちてしまった。アカデミー10部門にノミネートされたに関わらず、蓋を開けると受賞は脚色賞と音響賞のみで、更に監督のフリードキンも、助演のブレアも以降作品に恵まれなくなってしまった。

 様々な意味で映画史に残る、罪作りな作品だったわけだ。

(評価:★4)

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