[コメント] 大阪物語(1999/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
この映画はいつもの市川準監督の女の子を主人公にした成長物語だ。この監督はまず女の子を決め、物語を設定して、きれいに撮る人というイメージだった。しかし今回の作品は少し違う。割と映画的な実験をしているように思われる。
まずファーストシーン。いきなり主人公の女の子がカメラに向かって話しかける。自分の名前を言い、家族について話し出す。そこでカメラに向かって話しかけることでこの映画の「物語性」を否定する。主演の池脇千鶴は映画の中で若菜という少女を演じているがカメラに向かって話しかけることによりカメラ(映画)の存在を観客に認識させ物語だけどドキュメンタリーということを宣言している。
そしてラストシーン。またカメラに向かって話しかける。今度は背中に腹違いの赤ん坊をおぶって父親のこと、1999年の終わりについて話しかける。台詞だけどカメラを意識しながら自分の成長(ひと夏の思い出)をについて話しかける。
このファーストシーンとラストシーンのカメラ目線の独白は何だろう。これははたしてドキュメンタリーを意識したのかここではまだ結論を出さないでおこう。
次に映画の中のカメラワークについて。三脚に乗せてどっしり撮るのではなくほとんど手持ちでライティングも自然光。たしかにこのカメラワークで大阪の空気、夏の匂いは画面に映っている。このカメラワークもはたしてドキュメンタリーを意識したものだろうか。
そして役者について。主要人物以外本物の芸人、本物の人を使い大阪のリアリティを表現している。ミヤコ蝶々に父親のことを聞きに行くシーンで昼間なのに暗いバーで彼女が父親のことを少しはしゃべるがほとんど自分のオリジナルのような話はかなり「リアル」だった。まわりの人物を本物の人を使うことによって「リアリティ」を出す。これはドキュメンタリーを意識するなら成功している。ただカメラ、演出は対象の人物に向かって踏み込んでなくただの風景になっている。
最後に池脇千鶴の大阪弁について。これはうちの奥さん(関西出身)いわくネイティブだそうだ。もしネイティブでなく演技だったらこの役者はとてつもなくすえ恐ろしい。池脇千鶴の大阪弁もいいが他の役者の大阪弁も良くこの映画の大阪弁が完璧なのがドキュメンタリーを意識するにあたってかなり成功している。
そして結論だが「カメラ目線」「手持ちのカメラワーク」「本物の関西人」「大阪弁」。これらによってドキュメンタリー風になっているが所詮「〜風」で「ブレア・ウォッチ・・」「ダンサー・イン・・」のように「風」ではなく見ているときは「そのもの」までだまして欲しい。監督の意図は「ドキュメンタリー風」になれば「リアルさ」と「空気感」が出ると思ったのだろうが、所詮小手先だけでは中途半端だ。この中途半端が苛立たせる。
往年のアイドル映画が全盛のとき、角川映画「時をかける少女」「セーラ服と機関銃」のとき割りとベタな演出もあったし役者も素人だったがとてつもないエネルギーがあったと思う。90年代になり夢と希望の映画よりリアルさを求められる時代になりまたうまくまとめる作品が多くなった。この作品はそんな90年代的映画そのもので小手先だけのうまくまとまった映画だ。小手先の技術では映画自体は破壊されない。例えば「セーラ服と機関銃」。セーラ服を着た少女が機関銃をぶちまかして「カイカン!」と言ったり、望遠レンズでビルの屋上をとらえ5分くらいながまわしをしたり全然リアルでなく下手したら映画を破壊していたかもしれないというエネルギーに満ち溢れていた。
私はこの映画は苛立つが結構おしいと思う。全体の流れだが前半は主人公の少女から見た両親の話。後半は失踪した父親を少女が探す。特に後半がいい。失踪した父親の姿はほとんど見せず父親と交流にのあった人たちを訪ね歩きその人の話で本来の父親の姿を浮き立たせる。主人公は本当の主人公ではなく両親、父親が主人公ではないか。女の子はその両親を追う「目」であり「耳」であり追う対象ではない。物語の対象ではないこんなアイドル映画はいままであっただろうか。主人公はただ見て、聞いて、体験しただけ。主人公は行動するがそれは人のため。
ラストシーン、少女は赤ん坊をおぶっている。父親の残した子供をもちろん自分の子ではない。彼女の独白が終わりストップモーションになりクレジットが流れる。そしてまた彼女が動き出す。そしてまたストップモーション。 このクレジットの途中で動き出したのはこの物語を演じた役者とこの物語の大阪の風景である芸人を2つに分けるためだが、この「動き」は私は21世紀の主人公のこれからの人生を表現していると思いたい。両親、父親の物語ではなく彼女の自分の物語のはじまりだと。
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