[コメント] ベニスに死す(1971/伊)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
*いろいろな見所
>「くろねずみ」さん御推薦のピエロ・トージの衣装
着せ替え人形のようなビヨルン・アンドレセン。 2種類の水兵服(セーラーと言わないで)や詰襟、 教会でのコートやホテルでのセーター、そしてレトロな水着。 ファッションに興味のある方は見逃せません。
また美少年好きの方には、もはやコスプレショーです。 (3度目に観た時の映画館で、タジオのシーンではフラッシュの嵐でした。) 母親役のマンガーノや、海辺を通り過ぎていく女性たち アッシェンバッハの衣装にも注目です。
「リドの名門ホテル“水浴ホテル”を譲り受け、18世紀末から19世紀初頭のスタイルに作り変えてしまった」(パンフレットのプロダクション・ノートより) 要求の激しい監督に応えるのは大変だったでしょうが、 装置家としての腕を思う存分振るえたのではないでしょうか? なお、海岸での撮影は野次馬が多くてセットを作ったそうです。
*様々な解釈
原作でもそうですが、アッシェンバッハとタジオはそれぞれ 芸術家と市民、病気と健康、死と生、 老いと若さ、醜と美、退廃と健全、孤独と家族 の対比イメージになっています。
ビスコンティのトーマス・マンへの共感は、 芸術家(孤高)でいながらも普通の市民(家族)に強く憧れているところでしょうか?また老いを迎えた自分をアッシェンバッハに、家族に囲まれていた少年時代をタジオに重ねていたのかもしれません。
>化粧について
これについては海野弘さんが「化粧は腐敗を覆い隠す装置」と解釈しています。 ベニスが疫病に侵されはじめて、白い消毒薬がまかれると、アッシェンバッハも 船で最初に出会った老人のような化粧をされてしまいます。あんなに健康に憧れて、モラリストを自負していたアッシェンバッハであれば嫌悪したであろうに・・・。 同じような化粧は、うるさがって軽蔑していた道化師もしていましたね
>淀川長治先生説
たしかに淀川先生はタジオが美少年であることで、ホモセクシャルとして美に溺れていくと解釈していましたね。本来であれば美への陶酔は性を超越することで、その純粋さを示したとするところなのに・・恋がアッシェンバッハをあそこまで狂わせたのでしょうか? また先生は、タジオが「ビスコンティ映画で唯一人悪魔的存在を貫いた」と言われました。 芸術家としての敗北のみならず、無残な姿でベニスを彷徨うアッシェンバッハは、地獄に引きずりまわされているようでしたね。 また、ラストシーンでその悪魔が「美の立像」にも化けたとも言われました。
>「ビスコンティ=マザコン説」by作家の橋本治さんです
ここで母親役が、わざわざマンガーノでしかも上品で優雅なのは、ビスコンティ自身の母親を投影したのでは? 彼は普通でない(ホモセクシャルも含めて結婚していないとか)ことで 母親に対して、後ろめたい気持ちがあったのでしょう。でも、どんなに名誉や成功を得ても、母親はもうすでにいません。 そこで自虐的なまでに自らを責めることで、許してもらおうと母に捧げられた (でもそれは最も高貴で美しいものでなくてはならない)個人的な作品ではないだろうか?という解釈だったと思います。
アッシェンバッハが一度だけタジオとコンタクトしようとする場面がありますよね。
でもここではタジオでなくタジオのお母さんに忠告として話し掛けます。 まるでこどもが自分の母親に必死に言い訳しているみたいに・・ しかもこれはアッシェンバッハの想像の中での出来事です。 それと、
<心理的に母離れしていない男性は他の女性を無意識に侮辱しようとしている>
ことも考えると淀川先生がビスコンティに夢中なのも、ホモセクシャルというよりは、マザコンであることのシンパシーの方が強いかもしれません。 あ、もちろん贅沢で繊細な映画を作ることにかけてビスコンティの右にでるものはないから、というのが先生お気に入りの一番の理由ですが。
>タジオ「死の天使」説 ノウェル・スミス?すいません。どなたの説か失念しました。
登場人物全員が死の使いになって、アッシェンバッハの意思とは関係なく 死の天使であるタジオの元へと運んでしまう。というものでした。
この解釈だと、あのラスト・シーンはアッシェンバッハの魂を文字通り奪って 天に昇っていったのかもしれませんね。
あと tip60さんへ、「魔の山」はビスコンティが「ルードウィヒ」撮影中に倒れて入院した時に、構想したそうです。でもヘルムート・バーガーを使うのには無理がありますよね。
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