[コメント] ミツバチのささやき(1972/スペイン)
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少女が兵士を怪物に見立てたのはいいのだが、彼は怪物ではない。名前だってあるだろうし、言葉も喋れたはずだ。あの兵士は映画の御都合のために唖にされてしまった。
世のほとんどの観客は、アナの立場にその身をおくことだろう。それは、この作品の大前提といってもいい。しかしオレにとってはフランケンシュタインの怪物こそ古い馴染みであって、アナのような少女の方こそ神秘的で、美しく、謎めいていて、わけのわからぬ存在だ。『ミツバチのささやき』を悪くない映画だと頭では理解しながら、しかしオレにとってこの映画がアナ・トレント鑑賞映画以上のものにならなかった理由は、突き詰めるとそういうことだ。オレにとって『ミツバチのささやき』は、『フランケンシュタイン』よりずいぶん荒唐無稽な、御都合主義に満ちた映画だ。正直言って、『フランケンシュタイン』のほうが遥かにいい映画だと思う。
あの兵士は『八つ墓村』よろしく落ち武者狩りに遭うのだが、その描写はロングショットのマズルフラッシュのみで処理される。『ミツバチのささやき』が、怪物のために流す涙を持たない映画であることが明らかになる。少なくとも、怪物そのものに向ける視線を持たない映画であることが判る。そのこと自体はいい。いいのだが、それってずいぶん『フランケンシュタイン』の精神とはかけ離れた世界だ。
『ミツバチのささやき』はアナの目に映った映画『フランケンシュタイン』をきっかけにして、アナの世界を見事に描いてみせた。そしてビクトル・エリセの真意は知らぬものの、オレはどうしても『フランケンシュタイン』が都合のいいようにうまく利用されてしまったという印象を拭えないのだ。
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